あとがき 筆者は「わかりやすさの専門家」と言われることがあるのですが、これに は小さな違和感を抱いていました。なぜなら、まれにですが、相談された申 請書の図などをあえて「わかりにくく表現する」ことがあったからです。ま た、研究者からもらったラフ案に情報を追加したり、別の内容の図を提案す ることもありました。このため、与えられた情報をわかりやすく表現する以 外にも、何らかの念をもって図をつくっているという自覚はあったのです が、それをなかなか言語化することができていませんでした。 では、筆者が譲れないと思っている信念は何なのか。本書を書くにあたっ てはこの点を掘り下げて考え、たどり着いたのが、見た人が「研究の価値」が わかるということでした。本書ではテーマを研究概要図に絞ったことで、「研 究の価値」というキーワードを明確化することができたと感じています。 本書は筆者の様々な知識や実践が反映されています。 研究者としては、科学論や科学技術社会論、科学技術コミュニケーション 論という分野の研究者として、科学の視覚文化や科学と社会はどうあるべき なのかということを人文社会的視点から探究しています。研究情報を伝える 際にはいつも、筆者なりに「この研究はターゲットから見たときにどういう 価値をもつのか」を批判的に解釈するようにしています。そのときの考え方 の一部は、本書に反映されています。 デザイナーとしては、東北大学で教育研究支援者やURAをしていた時代に、 文系を含めた幅広い分野の研究者と協力してスライドやポンチ絵の制作を行 いました。また、株式会社LAIMANでデザイナーをしていた時代には、ビジ ネスとしての制作という大学では得がたい経験をさせてもらい、図の制作を 依頼してくださった研究者の皆さんからも、多くの学びをいただきました。依 頼者の研究の価値をいかにして魅せるかという思考は、デザイナーのキャリ アのなかで養われたと考えています。 教育者としてはこれまで数千名の研究者や学生などに向けてスライドや図 のビジュアル・コミュニケーションに関するセミナー、ワークショップ、個 別のアドバイジングを行ってきました。本書ではそのなかの質疑やアンケー トで受けた質問には、できるだけ答えることを心掛けました。例えば、本書 あとがき 225