取捨選択したり、かたちを意図的に変形したり、抽象化することもありま す。また、対象を直接見られない場合は、今ある科学知識をもとに推論し ながら描くこともあります。科学的な正しさを損なわずに的確なデフォル メや推論を行うには、どこまでが科学的な情報で、どこからが自由に描け るのかについての知識と判断力が必要です。 このように科学・医学的に妥当でわかりやすい図を制作するには、その 分野に関する知識と理解が必要です。画力やデザインカ、デジタルツール の利用スキルはもちろんのこと、リサーチカや論文や専門書の読解力、研 究者と議論するための基礎的な専門知識とコミュニケーション力など、専 門性の高い対応力が必要です。デザイン・アート系の基本スキルは比較的 独学や専門学校などで学びやすいのですが、科学・医学系の知識やリサー チカは自力で学ぶのが難しいため、サイエンス/メディカルイラストレー ターは、理系のバックグラウンドをもっている人が多い印象です。 このような高度な専門性から、欧米では、ジョンズ・ホプキンス大学や トロント大学などの大学や大学院に、科学専門イラストレーター養成コー スがあります。コースの卒業生は、広告関連企業や新聞社、出版社、動画 産業、デザインサービス、法医学系の企業、広告代理店、大学などで働い ています。また、AMI (AssoCiation ot Medical lllustrat GNSI(Guild of Natural Science Illustrators)などの比較 な職業団体もあり、専門職として確立されています。 一方、日本は欧米と比べると職業としての認知度が低く、学んだり活躍 したりできる場が限定されています。教育面では2011年に川崎医療福祉 大学にメディカルイラストレーションコースが設置されましたが、それ以 外は大学などで学べる教育コースは筆者が知る限りなく、スキル獲得の機 会が少ない状況にあります。また、日本のサイエンス/メディカルイラス トレーターの多くは自営業です。その他では、専門の制作会社もあります が、大学や研究所、病院、出版社などで任期付きのポストで働いている場 合や、副業として、あるいは勤務先の業務のなかで部分的に仕事を請け負っ 165