3研究概要図はなぜ増えているのか ベテランの研究者ならば、「昔はそんな図はつくらなかった」と思うかも しれません。実際、研究概要図は21世紀に入ってから急速に広まっていま す。グラフィカルアブストラクトでいえば、ルーツは1976年にドイツの 化学雑誌に掲載されたものであるといわれていますが、本格的に普及した のは2010年代からです。学術ジャーナルのオンライン化後に導入される ことが多く、最近になってジャーナルから提出を求められるようになった と感じている研究者も多いと思います。ではなぜ急速に研究概要図が広まっ ているのでしょうか。 理由の1つは、社会全体でオンライン情報のビジュアル化が進んでいる ためです。ウェブサイトにしてもSNSにしても、インターネット上の情報 には絵や写真、動画があふれています。無料で使えるちょっとした写真や 絵の素材が充実し、作画するためのアプリケーションや画像生成AIも広がっ ており、誰もがビジュアルコンテンツを利用・発できるようになってい ます。このような時代のなかで、文字のみのコンテンツでは大量の情報の なかに埋もれ、気づいてもらえない可能性があります。この傾向は学術世 界も同様で、さまざまな学術ジャーナルがビジュアルを重視したカラフル なレイアウトや表紙を採用するようになりました。競合する情報が大量に あるなかでは、ビジュアルなしで読者を獲得するのが難しい時代になって きているといえます。 また、アクセスできる情報の量や読むべき情報量が増大化するなかで、 1人の研究者が大量の情報に対処する必要性も生じています。年間で何百万 本という論文が公表されるなかで、いかにして速く自分が読むべき論文を 探し、理解するのかということは科学コミュニティにとって重要な課題で す。競争的研究費の申請書を審査する審査員にとっても、大量の研究計画 を隅々まで読んで理解するのは大きな負担です。1枚ではっと理解できる研 究概要図は、情報過多になんとかして対応したいという研究者のニーズに も応えるものとなっています。 さらには、研究費や研究ポストの獲得競争が厳しくなるなかで、自らの 1. なぜ今、研究概要図が求められるのか 11