--- title: "2 ジャーナルに掲載された図の Before After 例" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 番外編 学んだスキルの実践例:実例 Before After section: 2 pages: 192-193 images: page_0192.png ~ page_0193.png keywords: ["Before/After", "レイアウト", "イラスト"] --- # 2 ジャーナルに掲載された図の Before After 例 小児アレルギー学を専門とする医師から依頼された、総説論文に掲載する図の制作について、研究者によるラフ案(Before)と制作した図(After)を紹介します。この図は論文の仮説の全体像をまとめたサマリー的な役割を担っています。 ## Before の状態 > **Before:** 「dysbiosisがアレルギー疾患発症に関与する(仮説)」というタイトルのラフ案。左側に腸内細菌叢に影響を与える因子(Maternal microbiome、Mode of Delivery、Drugs、Nutrition、Environment、Pets、Siblings、Sanitary)が列挙され、中央に「Gut Dysbiosis」、右側にアレルギー疾患が配置されている。メカニズム部分は文字と図形(矢印、四角形)で展開されており、「腸管内の酪酸産生菌」「腸管内の酪酸↓」「腸管でのTregの分化・誘導↓」「末梢血中Treg↓」「過剰な免疫反応を抑制できず」という流れが文字ベースで記述されている。視覚的な抽象度が高く、直感的に把握しにくい。 研究者から送っていただいたBeforeのラフ案では、さまざまな因子が腸内細菌叢のバランス異常(dysbiosis)を引き起こすと、腸内の連鎖的な分子・細胞の反応を経て過剰な免疫応答が生じ、アレルギー疾患の発症につながるという仮説の流れがまとめられていました。 Beforeではメッセージやストーリーは整理されており、最終的な結論も明快です。ただし、あくまでラフ案ですので、視覚的には完成形ではありません。特にメカニズム部分が文字と図形で展開されているため、視覚的な抽象度が高く、直感的に把握しにくいと感じました。このため、Beforeからできるだけ要素をイラストとしてビジュアライズするという作業を行いました。 ## After の状態 > **After:** 左から右に一直線に進むレイアウトに再構成。左側に因子(Maternal microbiome、Mode of delivery、Dietary fiber、Drugs、Nutrition、Region & Genetics、Environment)が配置され、中央に腸(Intestine)のイラストが大きく描かれている。腸の断面図には上皮細胞(Epithelial cells)、粘膜固有層(Lamina propria)が描き分けられ、酪酸産生菌(Butyric acid-producing bacteria)の減少、酪酸(Butyric acid)の低下、Naive T cellsからp-Tregsへの分化、Foxp3遺伝子のヒストンアセチル化低下、IL-10低下、Effector T cellsの増加という分子メカニズムがイラストで表現されている。右側には「Dysbiosis」を経て子どものシルエットとともに「Allergic Diseases」が配置。メインカラーは緑色、ベースカラーは茶色で、メカニズム部分は要素ごとに色分けされている。 > **改善ポイント:** > 1. メカニズム部分を文字から腸のイラスト・分子・細胞のビジュアルに変換し、直感的に把握しやすくした > 2. 因子を左側、アレルギー疾患を右側に配置し、左から右に一直線に進むレイアウトに変更 > 3. 腸内細菌叢のバランス異常やアレルギー疾患が直感的に捉えられるよう、子どものシルエットのイラストを追加 > 4. メインカラーを緑色、ベースカラーを茶色とし、メカニズム部分は要素を色分けして視覚的に整理 > 5. 腸の断面構造(上皮細胞、粘膜固有層)を描き分け、どこで何が起きているかを明示 ## Before の図の構成 - **タイトル:** dysbiosisがアレルギー疾患発症に関与する(仮説) - **左側(因子):** 腸内細菌叢に影響を与える因子 ― Maternal microbiome、Mode of Delivery、Drugs、Nutrition、Environment、Pets、Siblings、Sanitary - **中央:** Gut Dysbiosis - **メカニズム(文字ベース):** 腸管内の酪酸産生菌↓ → 腸管内の酪酸↓ → 腸管でのTregの分化・誘導↓ → 末梢血中Treg↓ → 過剰な免疫反応を抑制できず - **右側:** アレルギー疾患 - 制作:赤川翔平 ## After の図の構成 - **左側(因子):** Maternal microbiome、Mode of delivery、Dietary fiber、Drugs、Nutrition、Region & Genetics、Environment - **中央(腸のイラスト):** Intestine ― Butyric acid-producing bacteria↓、Butyric acid↓、Epithelial cells、Lamina propria、Naive T cells → p-Tregs↓、Foxp3 gene Histone acetylation↓、IL-10↓、Effector T cells↑、Excessive immune response - **Dysbiosis** → 子どものシルエット → **Allergic Diseases** - 制作:有賀雅奈 - 出典:Akagawa S & Kaneko K: Gut microbiota and allergic diseases in children. Allergol Int, 71: 301-309, 2022より転載。 ## 依頼者のコメント **赤川翔平**(関西医科大学) 有賀先生に作成いただいた図は、私達が提唱する仮説を図1枚で直感的かつ非常にわかりやすく表現しており、研究成果が広く認知されるうえでとても重要な役割を果たしてくれています。科学的内容、特に分子生物学的なメカニズムのイラスト化は困難でしたが、見事に可視化していただきました。授業や講演会などでこの図を使用していますが、聴講者の理解度向上にもつながっており、サイエンスイラストレーションの重要性を改めて実感しています。