--- title: "3 思考のツールとして活用する" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第6章 一度きりではもったいない:別メディアへの展開 section: 3 pages: 163-170 images: page_0163.png ~ page_0170.png keywords: ["メディア展開", "イラスト", "イラストレーター", "依頼", "外注"] --- ## 3 思考のツールとして活用する ### 研究概要図から研究アイデアを発展させる 研究概要図は研究の全体像やロジックを見ることができる図です。この性質を使えば、研究概要図を用いて研究計画を考え直す、あるいは研究の次の戦略を考えることも可能かもしれません。例えば申請書が不採択だった場合に、どの点が不十分だったのかを研究概要図を見ながら検討し、次回に向けて研究のステップを足してみたり、分担体制を書き換えてみたりとアイデアを書き込むことができます。コミュニケーション用ではなくあくまでアイデア整理用ですので、図のサイズを好きなだけ広げたり、小さなフォントサイズで文字を足したりしても構いません。印刷して手書きで文字を入れても大丈夫です。複数の共同研究者とともに研究概要図を見ながら、研究計画を議論するなど自分に合った方法で、次の研究へぜひ役立ててください。 --- ### COLUMN ⑤ サイエンス/メディカルイラストレーターとは あなたはサイエンスイラストレーターやメディカルイラストレーターという言葉を聞いたことがあるでしょうか。サイエンスイラストレーターは科学的な内容を、メディカルイラストレーターは医学・医療の内容を視覚的にわかりやすく表現する専門のプロのイラストレーターのことです。知らない間にサイエンス/メディカルイラストレーターが制作したイラストを見ているかもしれませんが、その存在自体は知らない人も多いかもしれません。このコラムではサイエンス/メディカルイラストレーターの職業について紹介します。 サイエンス/メディカルイラストレーターは、主に論文や専門書、教科書、雑誌、図鑑、展示、ウェブサイト、プレゼン資料などに掲載する科学的な内容を説明する図を制作します。依頼者は研究者や医師のほか、大学・研究所、博物館や企業、病院、教育機関、出版社などです。制作手法は2Dのコンピューターグラフィックスが多く、ほかにも水彩、ペン画、鉛筆画などさまざまあります。最近はアニメーションや3DCGなどを制作する方もいます。 また、描く対象も多様です。目に見える対象はもちろん、目に見えない対象、例えば分子や細胞などのミクロの世界、絶滅した生物、星や銀河などの巨大な世界、放射線、概念やモデルなどを描くことがあります。イラストレーターのなかには、特定の対象(例えば植物や恐竜、宇宙など)を描くことに特化している方もいます。 サイエンス/メディカルイラストレーターの役割は、難しく複雑な情報を科学的に正確かつわかりやすく表現することです。目に見える対象を観察して描く場合でも芸術のデッサンとは異なり、情報を効果的に伝えるためのさまざまなデフォルメを行います。重要な情報を強調したり、情報を取捨選択したり、かたちを意図的に変形したり、抽象化することもあります。また、対象を直接見られない場合は、今ある科学知識をもとに推論しながら描くこともあります。科学的な正しさを損なわずに的確なデフォルメや推論を行うには、どこまでが科学的な情報で、どこからが自由に描けるのかについての知識と判断力が必要です。 このように科学・医学的に妥当でわかりやすい図を制作するには、その分野に関する知識と理解が必要です。画力やデザイン力、デジタルツールの利用スキルはもちろんのこと、リサーチ力や論文や専門書の読解力、研究者と議論するための基礎的な専門知識とコミュニケーション力など、専門性の高い対応力が必要です。デザイン・アート系の基本スキルは比較的独学や専門学校などで学びやすいのですが、科学・医学系の知識やリサーチ力は自力で学ぶのが難しいため、サイエンス/メディカルイラストレーターは、理系のバックグラウンドをもっている人が多い印象です。 このような高度な専門性から、欧米では、ジョンズ・ホプキンス大学やトロント大学などの大学や大学院に、科学専門イラストレーター養成コースがあります。コースの卒業生は、広告関連企業や新聞社、出版社、動画産業、デザインサービス、法医学系の企業、広告代理店、大学などで働いています。また、AMI(Association of Medical Illustrators)やGNSI(Guild of Natural Science Illustrators)などの比較的大きな職業団体もあり、専門職として確立されています。 一方、日本は欧米と比べると職業としての認知度が低く、学んだり活躍したりできる場が限定されています。教育面では2011年に川崎医療福祉大学にメディカルイラストレーションコースが設置されましたが、それ以外は大学などで学べる教育コースは筆者が知る限りなく、スキル獲得の機会が少ない状況にあります。また、日本のサイエンス/メディカルイラストレーターの多くは自営業です。その他では、専門の制作会社もありますが、大学や研究所、病院、出版社などで任期付きのポストで働いている場合や、副業として、あるいは勤務先の業務のなかで部分的に仕事を請け負っている場合もあります。このため日本の現状は、イラストレーターにとっては決してキャリアが形成しやすい環境とはいえません。一方、日本の関連団体としては、1958年設立の日本理科美術協会、2010年設立の日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会、2016年設立の日本メディカルイラストレーション学会、2022年設立の生命科学ビジュアルコミュニケーション協会などがあります。欧米と比べると規模は小さいですが、活動する団体は増えてきています。 サイエンス/メディカルイラストレーターは、単に見た目を美しく描く職業ではありません。専門的な情報を科学的な正確さを保ちながら、わかりやすく直感的に伝える役割を担っています。そのため、研究者の情報発信だけでなく、教育や科学知識の普及にも貢献します。日本のサイエンス/メディカルイラストレーター業界が発展することは、研究力や発信力の強化につながるだけでなく、科学・医学の知識を社会に広めるうえでも重要です。 この書籍を手に取ったみなさんには、是非日本のサイエンス/メディカルイラストレーター業界を応援していただきたいと思っています。具体的には、研究者や研究組織の一員の方であればプロのサイエンス/メディカルイラストレーターのSNSをフォローすることや、ここぞというときにプロのイラストレーターに依頼すること、さらには、もしも可能であれば、よりよい条件でプロのイラストレーターを雇用することをご検討ください。企業などの組織内で、業務の一環として図を制作してきた職員がすでにいる場合は、図の制作を職務として公式に認め、名刺や履歴書にイラストレーターという言葉が添えられるよう、配慮してほしいと思います。 また、プロのサイエンス/メディカルイラストレーター(あるいはそれを目指している方)であれば、ウェブサイトやSNSでご自身の作品や活動をどんどん発信してください。アピール力やスキルの向上につながることはもちろん、日本でどんな人がどんな作品を作っているのかが可視化され、依頼してみたいと思う人や、刺激を受ける人が増えていく可能性があります。また、仲間をつくるのも良いと思います。お互いの作品から学んだり、グループでイベントに出展したり、仕事で協力することもできるかもしれません。 日本の研究の価値を世界や社会に広く知ってもらえるようにするには、研究者の研究概要図の制作力の向上とともに、サイエンス/メディカルイラストレーター業界の活性化が必要です。是非今後もこの業界に注目していただければと思います。 --- ### COLUMN ⑥ プロに依頼する:探し方と依頼の方法 必要な絵の素材が見つからないけれど自分では描けないという場合や、ここぞという勝負どころの図を制作したい場合、また充分に予算が確保できる場合などはプロのイラストレーターやデザイナーに制作を依頼することも選択肢の1つです。研究概要図全体を丸ごとつくってもらえば、目を引く力の強い、ハイクオリティな仕上がりになります。 では、依頼先のプロはどのように探したらいいでしょうか。研究概要図は論文や申請書の内容を理解しなければつくれないことも多いため、一般的なデザイナーやイラストレーターには対応が難しい場合や、制作を断られる場合があります。科学分野の制作経験が豊富なイラストレーター・デザイナーや、サイエンス/メディカルイラストレーターに依頼すると安心です。 プロの探し方としては、「サイエンスイラストレーター」、医学系ならば「メディカルイラストレーター」などのキーワードで検索してウェブサイトやSNSを探すほか、科学関連書籍の奥付付近で制作に携わっているイラストレーターの名前を調べる方法や、サイエンスイラストレーターなどのリストを公開しているサイト〔「日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会」のウェブ紹介、2024年に京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)より発行され、オンライン上で無料で公開されている『プロに依頼する科学イラストのススメ』というパンフレットなど〕で探す方法があります(図1)。候補となるイラストレーター・デザイナーのウェブサイトまでたどり着いたら、強みのある専門分野(医学系、生物系など)、画風や価格表などを確認し、希望に合うか判断します。 > **図1 プロのリストを公開しているウェブサイトとパンフレット** > > 左)日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会のウェブサイト > 右)京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)発行のパンフレット『プロに依頼する科学イラストのススメ』 なお、イラストレーターとデザイナーのどちらに依頼すればいいか迷う方もいるかもしれません。イラストレーターとデザイナーの違いは、イラストレーターは依頼者が欲しいイラストを描くことが専門なのに対し、デザイナーは文字や写真、画像などを組み合わせ、依頼者の要望に合わせて見やすく紙面・画面を構成することが専門となります。研究概要図を依頼する際の選び方の目安としては、依頼したい図のなかに複雑な絵の描画が含まれる場合はイラストレーター、絵はシンプルで構わないので文字や情報の整理を考えてほしいという場合はデザイナーになると思いますが、最近は両方のスキルをもっているプロも多いので、明確な判断基準はありません。イラストレーター・デザイナーのウェブサイトの過去の作品のなかに希望に近い図があるかどうかを見たうえで、メールなどで問い合わせるのがよいと思います。 依頼先のイラストレーター・デザイナーを決めたら、まずはメールや問い合わせフォームで問い合わせをします。どのような場面や媒体に掲載するのか、誰に向けた図なのか、何を伝える図なのか、サイズ、枚数、予算、納期を伝え、依頼可能か確認してください。もしも研究概要図をほかの用途で二次使用したいという場合はその希望も伝えます。簡単でいいのでラフ案を用意するとプロが引き受けられるかどうかを判断しやすくなります。 ほかにも、論文や参考文献、プレスリリース本文など、提供できる資料があれば依頼時や制作段階で提供します。 なお、金額は、もしも予算が決まっているならば予算を提示してその金額で対応してもらえるか聞き、全く決まっていない、わからないならばプロに見積もりを出してもらい、その見積額を見て判断してください。金額の設定は制作内容や制作条件、使用条件、求めるクオリティ、それぞれのプロの方針によっても異なるので、事前に予測するのは容易ではありません。おおよその目安として研究概要図の価格は数万~20万円程度ではないかと思いますが、例外もあります。金額を公表しているところもありますし、相見積もりも可能ですので、まずは問い合わせてみるのがよいと思います。 納期も制作技法や内容、プロによって異なります。研究概要図1枚の場合、メールや打ち合わせなども含めて最低3~4週間はほしいところです。もちろん、1週間以内でもつくってくれるプロはいると思いますが、時間がないとクオリティに影響しますので、できるだけ時間に余裕をもつようにしてください。 依頼が確定したら、契約を結び、プロに制作を始めてもらいます。一般的な制作の流れとしては、メールやオンライン、対面などで打ち合わせをしたあと、プロがラフ案を制作し、その内容を依頼者がチェックします。修正後にプロが本制作を行い、完成後に依頼者が再びチェックした後に微修正を行い、完成・納品という流れになると思います。研究概要図はデジタル制作の場合がほとんどですので、納品はメールなどで行われることが多いです。 支払いは、依頼者が大学や研究所、企業に所属する場合、請求書払いが必要という場合が多いと思います。制作会社やサイエンスイラストレーター、メディカルイラストレーターであれば3連伝票や請求書の後払いに対応しているところがほとんどだと思いますが、心配ならば依頼時に確認するようにしてください。 ---