--- title: "6 完成前の最終チェック" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第5章 図の見た目を整理する:理解を促すビジュアルデザイン section: 6 pages: 148-154 images: page_0148.png ~ page_0154.png keywords: ["視認性", "解像度", "著作権", "パブリックドメイン", "CCライセンス"] --- ## 6 完成前の最終チェック ### 1 本文と食い違いがないかチェックする 視覚的な整理が終わり、研究概要図が完成したと思ったら、研究概要図を掲載する書類の本文(申請書や論文、プレスリリースの本文など)と内容や表記に食い違いがないかを確認するようにしてください。 筆者はこれまで、研究概要図の添削などで、申請書の内容と対応していない研究概要図を大量に見てきました。申請書では3ステップと記載しているのに研究概要図では4ステップで描かれていたり、キーワードが申請書本文と研究概要図で違う表記になっていたり、社会に与える影響が本文と研究概要図で異なっていたりと、さまざまな不一致があります。食い違いが生じる理由としては、申請書を書く段階ではまだアイデアが固まっておらず、途中で用語や内容を変更してしまったという場合や、共同研究者とともに分担して執筆した結果、人によって書き方が変わってしまったという場合などがあると思います。また、プレスリリースの研究概要図の場合でも、論文の翻訳のしかたが本文と研究概要図で食い違っていることがあります。例えば本文ではカタカナ表記なのに研究概要図では漢字表記や英語表記になっている場合などがあります。 研究概要図は本文と同じ主張をすることで理解を促し、強く印象に残ります。逆に研究概要図と本文の内容がずれている場合には、理解を阻害してしまうことや、「雑につくられている」という印象を与えてしまうことがあります。本文・研究概要図両方が完成した後には、必ず内容や用語に食い違いがないかをチェックするようにしてください。 ### 2 最後に第三者目線でチェックする 完成したら、作業後そのままの勢いで提出するのではなく、改めて第三者の目線で研究概要図を見なおすようにしてください。ケアレスミスの気づきはもちろん、制作している最中には気づかなかったわかりにくさや見にくさ、誤解の与えやすさなどに気づくことがあります。 第三者目線で見る方法としては、完成後、少し時間をおいてから確認する方法があります。ほかには、図をPDFやJPEGなどに出力して別のアプリケーションで開いてみるのもよいですし、紙に印刷してみると、さらに視点が変わって誤りなどを発見しやすくなります。PDFや印刷などで見る場合は、実際の掲載サイズで見るようにすると、拡大して作業していたときには気づかなかった見にくさにも、気づきやすくなります。 また、可能であれば第三者的な立場の人に見てもらうのも効果的です。ターゲットに近い人であればよりよいですが、そうでない人でも自分にはない視点で図を見てくれる可能性があります。図を見てくれる人には、ターゲットに合っていると思うか、メッセージが読み取れるか、図の内容を理解できるか、見やすいと思うかなど、全体にわたり意見をもらうようにし、必要に応じて修正を入れます。 ### 3 画像を保存する 修正が完了したら、図を画像として保存し、掲載先の文書ファイルやウェブページに挿入するか、ジャーナルなどに提出をします。画像の保存形式は、JPEG(.jpg)やPNG(.png)、TIFF(.tiff)、SVG(.svg)、PDF(.pdf)などがあります。ジャーナルなどから指定がある場合は指定に従い、特に指定がなく特別なこだわりがない場合は誰もが使ったことのあるJPEGやPNG、PDFなどで保存すれば扱いやすいと思います。なお、後から修正が必要になる場合もありますので、編集可能なファイル(.pptxや.aiなど)も必ず保存しておきましょう。 画像を保存する際には、適切な解像度にするよう注意してください。解像度とは画像のデータの密度のことです。解像度が不足するとぼやけてしまい、文字が読めなくなり、読み手にストレスを与えます(図5-40)。適切な解像度は、ディスプレイ表示用の場合は96 ppi程度、印刷媒体用の場合は300~350 dpi程度といわれています。ここでいうppiとdpiはどちらも解像度の単位です。ppiはモニター表示で使われる単位で、1インチ(25.4mm)あたりに並ぶピクセル数を指します。dpiは印刷物で使われる単位で、1インチ当たりに並ぶドットの数を指します。なお、解像度は密度なので、図のサイズを変更すると解像度も変化します。300 dpiの画像を2倍に拡大すれば、解像度は150 dpiに下がります。このため完成サイズで表示したときにディスプレイなら96 ppi、印刷なら300 dpi必要です。 > **図5-40の構成:** 同じ研究概要図(condition1/condition2、Transcription/Repressor、Gene1、ProteinA/B/C、inflammationなどを含むフロー図)を3段階の解像度で比較。左「解像度が不足」(文字がつぶれて読みにくい)、中「解像度がやや低い」(ぼやけて見にくい)、右「適切な解像度」(明確で美しく読みやすい)。 > **ポイント:** ディスプレイ表示は96 ppi、印刷は300~350 dpiが目安。サイズ変更で解像度も変化する。 また、解像度は高いほどくっきり見えますが、高ければ高いほどいいわけではありません。解像度が高くなると、同じ物理的な画像の大きさでも、ファイルサイズが大きくなり、重たくなってしまうためです。重たい画像は読み込みに時間がかかったり、データ送信に負荷がかかるなどの問題が生じますので、できるだけ適切な解像度になるように調整しましょう。 解像度は使っているアプリケーション上で確認するか、Windowsならば画像データの「プロパティ」の「詳細」から、Macならば画像をプレビューで開いて「ツール」、「インスペクタを表示」から確認することができます。 解像度の確認のしかたがどうしてもよくわからないという場合は、アナログですが、出力した画像ファイルを掲載予定のサイズで表示(印刷媒体用の場合は印刷)してみてください。図がぼやけている場合は、解像度が足りていません。 解像度を高くするには、以下の方法などがあります。 - お使いの図制作アプリケーションの解像度の設定を変える - 出力前の図やPDFを高解像度でスクリーンショット撮影する - 制作アプリケーション上でスライドやアートボードを大きくし、図を引き延ばして拡大してからもう一度出力する アプリケーション・OSによって確認方法や解像度を高くする方法が異なるので、詳しい方法は作業環境に合わせて調べてみてください。 --- ### COLUMN ④ 著作権の基本 著作権とは、著作物の利用にかかわる権利で、複製したり、展示したり、ウェブサイトなどで公衆に送信することなどができる権利です。ここでは著作権のなかでも、素材を利用した作図や、プロに制作を依頼した場合など、特に研究概要図にかかわる事柄で知っておいた方がいいことについてご紹介します。 まずはイラストやアイコン素材を利用する場合の注意点です。図の著作権は、制作した時点で制作者に自動的に付与されます。すなわち、素材サイトで配布されている素材の著作権は、基本的にはその制作者がもっています。たまにフリー素材を著作権フリーだと考えている方がいるのですが、フリー素材の「フリー」は基本的には無料という意味です。素材サイトで作成・配布されている素材のほとんどは、著作権が放棄されていません。著作権を放棄してしまうと、勝手に誰かがその素材を売ることや、社会的に問題のある使い方もできてしまうため、手放すことはほぼないと考えてください。 著作権をもたないにもかかわらず、私たちが素材を利用することができるのは、著作権者から利用を許諾されているからです。ちゃんとした素材サイトにはかならず利用規約が明記されています。そしてこの規約のなかに、どういう条件なら利用していいのかが書いてあります。例えば個人・法人や商用・非商用で利用可能なのか、複製や改変はしていいのか、著作権者名の表示をする必要があるかどうかといった内容です。私たちは規約の範囲内であればその素材を使うことができますが、規約で許されていない条件で使用してしまうと、法律違反の状態になります。規約に気づかずに法律違反しないよう、素材を利用するときは必ず規約に目を通すようにしてください。逆に利用規約が明記されていない絵は、素材として図の一部に組み込むことはできません。インターネット上で見つけた誰かの絵を勝手に素材として使うことはできないということです。 また、プロのイラストレーターに依頼した図についても、著作権譲渡契約をしない限り、著作権は制作したイラストレーターがもっています。このため契約時に伝えた条件や用途以外で図を使ってしまうと、違反している状態になります。例えばプレスリリース用の図をイラストレーターに制作してもらうという場合、プレスリリース後に学会発表や広報でも使いたいと考えているのなら、契約時にほかの用途でも二次利用したいということを伝える必要があります。制作してもらった図を後で改変して使いたいという場合もイラストレーターから許諾を得る必要があります。図の利用が1回のみか、複数回なのかについて料金を変えているイラストレーターもいますので、最初に提示していない条件で使う場合は必ず相談し、必要があれば追加料金を支払うようにしてください。 ジャーナルに図を提出する場合にも著作権規定を確認する必要があります。論文に記載された図やグラフィカルアブストラクトの著作権がどうなるのかはジャーナルによって異なります。図を制作した著作権者が保持する場合もあれば、ジャーナルに著作権を譲渡しなければならない場合もあります。ジャーナルに著作権を譲渡した場合はたとえ自分が作成した図であっても勝手に他の雑誌などに転載することはできません。図を二次利用したいという場合は必ず著作権規定を確認し、必要に応じて許諾申請をするようにしてください。出版社によってはオンラインフォームで許諾申請ができる場合や、二次利用の用途によっては無料で許諾してくれる場合もあります。 最近はパブリックドメインやクリエイティブ・コモンズという言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。著作権にかかわる参考情報として知っておいた方がいい概念ですので、簡単にご紹介いたします。 2023年、ウォルト・ディズニーによる初代ミッキーマウスの著作権が切れ、パブリックドメインになったことがニュースで話題になりました。著作権には一定の保護期間があり、その期間が過ぎると著作権が消滅します。日本では原則として著作者の死後70年、無名・変名の著作物や団体名義の著作物は公表後70年たつと著作権が消滅します。著作権が消滅すると、社会全体の共有物、すなわちパブリックドメインになり、誰でも自由に使えるようになります。また、70年を過ぎていない作品であっても著作者によって著作権が自発的に放棄された場合には、その作品はパブリックドメインに入ります。パブリックドメインの絵は自由に複製・改変・二次利用などができます。 また、最近では、論文や図にクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)が表示される例も増えてきました。CCライセンスとは国際的非営利組織が提供する、著作権に関する意思表示の国際的なツールです。著作権者は、クレジット表示(BY)、非営利での利用(NC)、改変禁止(ND)、継承(SA)の4種類の条件から好きな組み合わせを選び、ライセンスマーク(アイコン)を使ってCCライセンスを表記することで「この条件ならば私の作品を自由に利用してもよい」ということを世界に向けて表明することができます。CCライセンスの表記の条件に合う範囲であれば、その図を利用することが可能です。 著作権についてもっと知りたいという場合は、文化庁が教材やQ&Aなどを公表していますので確認してみてください。 ---