--- title: "5 表現をわかりやすく整える" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第5章 図の見た目を整理する:理解を促すビジュアルデザイン section: 5 pages: 136-147 images: page_0136.png ~ page_0147.png keywords: ["矢印", "アイコン", "イラスト", "視認性", "図表", "Before/After", "視覚的重み"] --- ## 5 表現をわかりやすく整える ### 1 矢印を整える 矢印は、時間変化や因果関係などさまざまな意味を担えるため便利な表現です。概念図といえば矢印と思えるほど、利用する人は多いと思います。ただ、矢印は想像以上に多くの意味を担うことができるため、見た人が矢印の意味を誤解するリスクがあります(図5-29)。例えば「しかし」という意味で使った矢印を、読み手が「それゆえに」の意味で捉えてしまうと、図の結論を読み違えてしまうかもしれません。次の段階に進むことを示す経過の矢印などは誤解なく読み取りやすいですが、一般的にあまり使われない意味を担わせる場合や、1つの図内に多数の意味の矢印を使う場合は、矢印のそばに「影響」「対立」などの文字を添えたほうがわかりやすくなります。 > **図5-29の構成:** 矢印が担いうる多様な意味を一覧で図示。含まれる意味:経過(●→●→●)、因果(A→B)、移動・軌跡(曲線矢印)、増減(↑A ↓B)、軸(time)、作用・影響(→)、指示(→)、対立(←→)、集約(複数→1)、接続詞(but)。 > **ポイント:** 矢印は多義的であり、文脈によって意味が異なる。誤解を避けるために文字を添えることが有効。 また、分野によってもよく使う矢印の意味は異なることがあります。例えば分子生物学などの研究者は、先端がT字状の矢印を「抑制」の意味で頻繁に使いますが、他の分野の研究者や非専門家は意味を知らないことがあります。このため、図を見せるターゲットによっては矢印の使い方に注意するようにしてください。 矢印を視覚的に整理するうえでの注意点はいくつかあります(図5-30)。まず矢尻の形を大きくゆがめないようにすることです。矢尻はできるだけ正三角形に近い方がきれいに見えます。また、複数の矢印を使用した場合、同じ意味の矢印は、太さと矢尻の大きさ、色などを統一するようにします。逆に違う意味の矢印を1つの図の中で使う場合は、別の見た目の矢印に変えても良いです。 さらに、矢印はあくまで「つなぎ」の役割なので、特別な意味がない限りは目立たせないようにします。色は淡い色や灰色などを使い、大きさもあまり大きくならないようにします。また、矢印自体の囲み線とその内側の塗りの両方に色を使うと視覚的な情報量が増えますので、基本は塗りのみの一色とし、できるだけシンプルに仕上げるようにしてください。 > **図5-30の構成:** 左に「矢印が整えられていない例」、右に「矢印の改善例」を並列表示。どちらも「研究サイクル:課題の分析→解決策の提案→解決策の実行→課題が解決した社会」というフロー。 > **配色:** 左の悪い例では矢印がさまざまな太さ・色・形状で不統一。右の改善例では矢印が統一された灰色のシンプルな形状。 > **ポイント:** 矢尻は正三角形に近く、同じ意味の矢印は統一し、塗りのみの一色でシンプルに。 ### 2 吹き出しや囲みを整える PowerPointでは図形の中に吹き出しがあるため、簡単に吹き出しを入れることができます。ただ、PowerPointの吹き出しをそのまま使うことはおすすめしません。吹き出しの付け根部分が広く、三角形部分が大きいために「野暮ったい」印象を与えやすくなります。吹き出しは、PowerPointの図形で四角形と三角形をつくり、図形の書式設定にある「接合」ツールを使って図形を合体させれば、自作することができます。吹き出しをつくる際には、付け根の三角形を小さめにし、なるべく正三角形に近い形にするときれいに見えます(図5-31)。 このような操作が面倒な場合は、さまざまな素材サイトにあるプロがつくった吹き出しの素材をダウンロードして使うか、あるいは吹き出しを使わないというのも選択肢です。海外論文のグラフィカルアブストラクトでは、吹き出しという形状はあまり使われない印象です。吹き出しを外して線や矢印でつなぐなど、ほかの表現を検討してみてもよいかもしれません。 > **図5-31の構成:** 3つの例を横並び。左「デフォルトの吹き出し」(PowerPoint標準の野暮ったい形状)、中「自作した例」(三角形を小さくした洗練された吹き出し)、右「使わない例」(吹き出しを使わず線でつなぐ)。いずれも折れ線グラフに「制裁開始」のラベルを付ける場面。 > **ポイント:** 吹き出しの付け根三角形を小さめにするか、吹き出し自体を使わない選択も有効。 文字を長方形のボックスに入れる場合は、囲み線が太すぎないようにし、囲みの内側の塗りと囲み線両方に主張のある濃い色を使わないようにします。塗りと囲み線の両方が目立つと、あまり意味がないにもかかわらず、視覚的な情報量が増えてしまいます。塗りのみ、囲み線のみにするか、同系色や明度、彩度を変えた似た色を使うなどして、ボックスをシンプルに仕上げてください(図5-32)。角丸を使う場合(角丸四角形)は、角を丸めすぎないようにすることと、すべての角丸四角形の丸さを同じくらいに揃えるようにします。文字を楕円のなかに入れる場合は、楕円をあまりにも細長く変形するとそれだけで見にくくなりますので、楕円ではなく角丸四角形を使う方がきれいに見えます。 > **図5-32の構成:** 左に「整っていない例」(角が丸すぎる、囲み線が太い、囲み線と塗りの両方が濃い)、右に「整えた例」を4パターンで表示。改善例:(1)角丸の調整+囲み線のみ+囲み線を細く、(2)角丸の調整+塗りのみ、(3)塗りと囲み線の色を似せる+囲み線を細く。 > **配色:** 悪い例はオレンジの太い囲み線と濃い塗りの両方が目立つ。良い例は囲み線のみ、塗りのみ、または同系色の組み合わせ。 > **ポイント:** 塗りか囲み線のどちらかに絞り、角丸は丸めすぎず統一する。 ### 3 イラストやアイコンを挿入する 図の中にイラストやアイコンを使うという人もいると思います。イラストやアイコンを用意する方法としては、自分で描く方法と既存の素材を利用する方法、プロにつくってもらう方法があります。 自分で描く方法については、描画スキルやアプリケーションの利用技術など別のスキルが必要になるため、本書ではカバーすることができないのですが、本書のCOLUMN(2)、(3)には自分で描く際の制作アプリケーションの選び方について紹介しています。また、プロへの依頼の方法もCOLUMN(6)で紹介していますので参考にしてみてください。 既存のイラストやアイコン素材を使う場合のポイントは、できるだけ1つの図の中で利用するイラストの画風を揃えることです。1つの図の中で全く違う画風の素材、例えば漫画風のイラストと写真のようなリアルなイラスト、シンプルなピクトグラムが入っていると、視覚的に混とんとした印象になりわかりやすさを損ねてしまいます。 また、研究概要図の場合は線画・ピクトグラム・アイコンなどの比較的シンプルな画風を選ぶと、情報量が多い場合でも使いやすいです。スペースが足りなくてどうしてもイラストが小さくなってしまう場合や図が込み入っている場合は、無理にイラストを入れずに長方形のボックスに入れた文字に置き換えるという表現も可能です。図全体のバランスを見ながら、イラストやアイコンが見にくくならないように挿入してください。 素材には無料のものと有料のものがあります。ここでは素材を探す際に参考になる、いくつかの有名な素材提供サイトを紹介したいと思います。 #### 1) さまざまな素材が揃う無料素材サイト(図5-33) 比較的多くの種類の素材を、統一した画風で提供してくれている無料のサイトとしては、以下が有名です。 - **かわいいフリー素材集 いらすとや** https://www.irasutoya.com/ - **HUMAN PICTOGRAM2.0** https://pictogram2.com/ - **SILHOUETTE DESIGN** https://kage-design.com/ - **ICOOON MONO** https://icooon-mono.com/ > **図5-33の構成:** 上記4サイトのスクリーンショットを並べて表示。いらすとや(かわいいイラスト)、SILHOUETTE DESIGN(シルエット素材)、ICOOON MONO(モノクロアイコン)など。 > **ポイント:** 無料でも統一した画風の素材が入手可能。 #### 2) 医学・生命科学系での無料素材サイト(図5-34) 医学・生命科学系でフリー素材を豊富に提供しているサイトには以下があります。 - **看護roo! 看護師イラスト集** https://www.kango-roo.com/ki/ - **TOGO TV Togo picture gallery** https://togotv.dbcls.jp/pics.html - **Servier Medical ART** https://smart.servier.com/ - **NIH BioArt Source** https://bioart.niaid.nih.gov/ > **図5-34の構成:** 上記4サイトのスクリーンショット。看護roo!(看護師向けイラスト)、Servier Medical ART(医学系ベクター素材)、NIH BioArt Source(科学イラスト2000点以上)など。 > **ポイント:** 医学・生命科学系には専門的なフリー素材サイトが存在する。 #### 3) 大手の有料素材サイト(図5-35) 大手の有料素材サイトとしては以下があります。メディアやデザイナーなども利用する一般的な素材サイトですが、科学的な素材もあります。無料ではないためコストはかかりますが、品質はよいものが多いです。 - **Adobe Stock** https://stock.adobe.com/jp/ - **Shutterstock** https://www.shutterstock.com/ja/ - **iStock** https://www.istockphoto.com/jp - **PIXTA** https://pixta.jp - **amana images** https://amanaimages.com/home.aspx > **図5-35の構成:** 上記サイトのスクリーンショットを複数並べて表示。Shutterstock、iStock、PIXTAなどのトップページ。 > **ポイント:** 有料素材は品質が高く、科学系素材も取り扱いがある。 ほかにも有料で科学的な素材を提供しているサイトは豊富にありますので探してみるとよいと思います。 なお、既存の素材を使う際には利用規約を必ず確認し、規約に沿って利用するようにしてください。著作権についてはCOLUMN(4)でも参考情報を載せていますので、参考にしていただければと思います。 ### 4 グラフや画像を整えて挿入する 研究概要図にグラフや表、画像など、証拠となるデータの役割をもつ図を挿入することも多いと思います。この際の注意点は、論文で利用した図はそのまま使わないようにすることです。研究概要図は論文の図と異なり、データの妥当性を議論するための図ではありません。結果がおおまかに理解できればよいため、論文で必須だった情報、すなわち画像であればスケールバーや細かい条件についての情報、グラフであれば統計的に必要な情報(エラーバー・平均値など)や単位などを省略することも可能です。もちろん、見る側が理解するのに必要な情報は入れるべきですが、ぱっと見でだいたいの意味が理解できることをめざして調整することが重要です。 #### 1) グラフの場合 グラフを利用する場合は、図のサイズと解像度に注意してください。よくあるのは論文用につくった小さいグラフを、研究概要図で拡大して掲載した結果、解像度が悪くぼやけて見えてしまう事例です。逆に論文用につくった大きいグラフを、研究概要図の中に縮小して掲載した結果、数値や単位などの小さい文字が潰れて読めなくなることもあります。基本は論文の図は描き直し、グラフの掲載サイズに合わせて文字のサイズなども調整するようにします(図5-36)。また、理解するのに必要最少限の情報のみを掲載し、色合いなどもメインカラーやアクセントカラーに合わせて調整します。 > **図5-36の構成:** 左に「論文のままのグラフ」(エラーバー、単位、凡例ボックスなど詳細情報付き)、右に「概要図用のグラフ」(情報を最少限に絞り、文字サイズを大きく、色をメインカラーに統一)。 > **配色:** 左は複数色の複雑なグラフ。右はConditionAとConditionBを青・オレンジの2色で簡潔に表現。 > **ポイント:** 論文のグラフを描き直し、掲載サイズに合わせて文字サイズ・情報量・色を調整する。 #### 2) 画像の場合 顕微鏡やCT、あるいは解析画像などの画像データは、分野にもよるかもしれませんが、研究概要図にはあまり使われない印象です。美しく、かつ意味を誰でも明確に読み取れる画像の場合はよいですが、普通は限られた専門家以外は画像を理解するリテラシーをもっていないため、申請書やプレスリリースなどの少し広いターゲットが想定されているときには使わない方がいいかもしれません。ジャーナル用のグラフィカルアブストラクトの場合も、3Dのレンダリング画像など、構造を明確に示す画像はよく使われますが、それ以外は概念図やグラフで表現されることが多い印象です。 もしも画像データを使いたいという場合は、ただ画像を載せるのではなく、その画像が何を意味しているのかをターゲットが理解できるようできるかぎり配慮してください。そもそもどの臓器・組織あるいはどんな機器・部品・状況なのか、どの部分の画像なのか、その画像をどう読むことによって何が読み取れるのかについて、矢印や言葉、イラストを添えるなどして丁寧に説明しましょう(図5-37)。 > **図5-37の構成:** 左に「画像に説明がない例」(断面画像のみ)、右に「説明を加えた例」(「○○素材の位置による断面の違い」というタイトル、矢印による指示、「○○状の断面」「xx状の断面」のラベル、「多様な機能の発揮」という結論テキスト付き)。 > **ポイント:** 画像には必ず、何の画像か・どう読むか・何がわかるかの説明を添える。 #### 3) 表の場合 表は研究概要図ではあまり使われることはない印象です。論文の図表として使った多数の行列をもつ表をそのまま入れるのは、直感的にわかりにくく、あまり効果的ではありません。表形式は、行と列の数を2~4程度に絞り込み、イラストやピクトグラムも組み込んで研究概要図全体をマトリクスとして表現するならば活用してもいいかもしれません(図5-38)。 > **図5-38の構成:** 2行3列のマトリクス形式。列:Type / Result / Mechanism。行:type A / type B。各セルにマウスのイラスト、折れ線グラフ、細胞のイラストなどを配置。 > **配色:** 青をメインカラーとした統一的な配色。マウスはtype Aが白、type Bがグレー。 > **ポイント:** 表は行列数を2~4に絞り、イラストやピクトグラムを組み込むと効果的。 ### 5 全体の表現を統一する 表現はできるだけ統一すると、すっきりと見やすくなります。レイアウトでは要素の配置を揃えるよう説明しましたが、揃えることができるのは配置だけではありません。見た目の表現もルールを決めてできるかぎり揃えていくことで、統一感のあるすっきりとした見やすい図になります。 レイアウト以外の揃えるべき主要な表現はすでにトピックごとに説明してきましたが、改めて整理すると、まず使うフォントの種類は1~2種類に揃えます。文字の大きさや太字にするかどうかなどについてもルールを統一するようにしてください。色は色数を3色に絞り、増やす場合でもできるだけ同じ色や似た色などを使うようにします。また、イラスト・アイコン素材を使う場合は、画風や色合いも揃えます。 揃えられる表現は、ほかにも以下のような点があげられます。ご自分でつくった図を見て思いつく限り揃えてみてください。 - **小見出しの見せ方:** ボックスに入れて太字にするなど - **関連する要素の大きさや配置の順番:** タイトル+イラスト+補足の順に配置する、イラストなどの大きさを揃えるなど - **文の表現:** すべて体言止めにするなど ### 6 情報に強弱をつける できるかぎり表現を揃えることができたら、今度は見た目に強弱をつけていきます。見た目に強弱をつけるとは、具体的には大事な情報が目立つようにすることです(図5-39)。大事な情報がどれなのかがぱっと見の見た目からわかるようになると、情報の優先度が理解できるため脳の負担が軽くなったように感じます。効果的に強弱をつけるポイントは次の3つです。 #### 1) 情報の優先度をつける 1つ目は、情報の優先度を的確につけ、重要性の高い情報を絞り込むことです。研究者の図やスライドでよくあるのは、強調する箇所が多すぎて太字や色つきの文字だらけになり、一番重要な情報が埋もれてしまうという状況です。アクセントカラーの項目でも解説した通り、目立たせる情報が多すぎると視覚的に煩雑になるうえ、重要情報が埋もれてしまいます。思いついたところをぽんぽんと強調すると強調だらけになる可能性がありますので、いまいちど図のメッセージに立ち返り、今回のメッセージを伝えるために重要な情報をできれば1~2カ所に絞るようにしてください。 #### 2) 重要情報を視覚的に強調する 2つ目のポイントは、重要情報を視覚的に的確に強調することです。強調の方法としては、主に以下のような方法があります。 - 他の要素と比べて大きくする - 他の要素と比べて太くする - 違う色・目立つ色にする(アクセントカラーの利用) - 囲みや背景色、ハイライトをつける - 形状を変える(四角形の中に1つだけ丸い形を入れるなど) - 目立つ場所に置く(中央や左上など) - まわりに余白を入れる - 矢印やイラストを付ける いくつかの方法を組み合わせると、より効果的に強調できます。内容的な重要情報以外にも、タイトルや見出しも太字にするなどすると全体が把握しやすくなります。 #### 3) 強調情報以外は統一感を出す 3つ目のポイントは、重要情報以外の情報を視覚的に統一し、整理することです。視覚的に目立たせるためには、目立たせたい要素の表現をその他の要素の表現と変える必要があります。重要情報以外の要素の色や見た目、大きさなどが揃っていると、少し色や大きさを変えるだけでも視覚的に目立つようになります。強調は表現の統一とセットになったときにより力を発揮しますので、統一と強調の両方を意識するようにしてください。 > **図5-39の構成:** 上段に「強調箇所がわからない例」(A物質・B物質・C物質・D物質がすべて同じ見た目で均一に並ぶフロー図)、下段に「様々な方法で強調した例」(同じフロー図だが、特定の物質を大きさ・色・囲み・位置・余白などで強調)。 > **配色:** 上段はすべて同じ青系で均一。下段はアクセントカラー(オレンジ)を1箇所に使い、サイズや太さも変化。 > **ポイント:** 統一された表現の中で1~2箇所だけを複数の方法で強調すると、重要情報が際立つ。