--- title: "4 効果的に伝わるカラー戦略" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第5章 図の見た目を整理する:理解を促すビジュアルデザイン section: 4 pages: 125-135 images: page_0125.png ~ page_0135.png keywords: ["配色", "視認性", "アクセントカラー", "ユニバーサルデザイン", "色相", "彩度", "明度"] --- ## 4 効果的に伝わるカラー戦略 ### 1 色の役割とは 色遣いは、研究者が図をつくる際に最も「センスがない」と感じがちなポイントです。色という概念は複雑なため、どう選ぶのかは実際問題として難しい作業です。にもかかわらず、何の指針もなく気分だけで色を選んでしまうと、本当に「センスのない」配色になってしまう可能性があります。 そもそも色はなぜ使うのでしょうか。色は単に見た目をよくするだけのものではありません。情報の意味をわかりやすく伝えるうえでも重要な要素です。色にはさまざまな機能がありますが、研究概要図の場合、色は主に次のような意図で利用する場合があります。 > **図5-19の構成:** 4つの色の役割を、それぞれアイコン的なビジュアル例で示す。(1)見やすくするため:「文字が見える」の視認性比較、(2)情報整理のため:AグループとBグループの色分け、(3)イメージを伝えるため:「熱湯」「冷水」のイメージカラー、(4)美しさのため:Graphical Abstractのビジュアル例。 > **ポイント:** 色には見やすさ・情報整理・イメージ伝達・美しさという4つの主要な役割がある。 #### 1) 見やすくするため(図5-19(1)) 色によって、見やすさや読みやすさが変わります。例えば白い背景色の上に、淡い黄色で文字を載せても、薄くて見にくく、思わず目を細めてしまいます。色覚の認知には多様性があるため、人によって見にくい色の組み合わせもあります。どんなに表現の工夫をしても、そもそも文字や要素が視覚的に見えにくいのであれば、情報が読み取れないためよい図にはなりません。 #### 2) 情報整理のため(図5-19(2)) 色を使えば、同じ種類の要素や情報をほかと区別することもできます。例えば10人いて、AグループとBグループに分かれていることを説明したいという場合は、Aグループを青、Bグループを赤に色分けして描くと、すぐにどの人が同じグループなのかを認知することができます。逆に同じ種類のものの色を統一することで、まとまりも感じやすくなります。図内、あるいは複数の図の間で同じ意味の要素を同じ色にすれば、共通した要素がどれなのかを見分けやすくなります。 さらに、色によって情報を強調することも可能です。例えば文字に色を付ける場合、特に目立たせたい場合は赤色を選択するという人は多いかもしれません。赤やオレンジなどの目立つ色を使えば、大事な要素に視線を誘導することができます。 #### 3) イメージを伝えるため(図5-19(3)) 対象を見えたままの色で表現すると、それがなんであるかを認識しやすくなります。例えば、白いマウスのイラストは一瞬でマウスであることが認識できますが、緑色のマウスのイラストは、実際とギャップがあるために「これは何なのか」という判断が遅くなります。このように、目に見えたとおりの色を使うことによって、対象について判断がしやすくなります。 また、色によって状態やイメージを伝えることも可能です。例えば熱湯と冷水があったときに、両方水色にするより、熱湯をオレンジ色、冷水を水色で示すと理解しやすくなります。実際に熱湯がオレンジ色、冷水が水色というわけではありませんが、色のもつイメージを利用することで状態を把握しやすくしています。ほかにも炎症状態は赤、自然は緑など、色のもつイメージの力を利用することで、意味や状態を伝えやすくなります。 #### 4) 美しさのため(図5-19(4)) 美しい色合いは、それだけで目を引き、よい印象を与えます。プロがつくったグラフィカルアブストラクトは、科学的に意味があるわけではない場合でも背景色が入っているなど、色が利用されていることが多いです。色をうまく活用すれば、ターゲットの「この図をもっと見ていたい」というモチベーションを上げられる可能性があります。 このように、色は情報を読み取りやすくするうえで重要な働きをしています。色を使う際、厳密にこの色はなんの役割なのかということを一つひとつ分析する必要はありませんが、「なんとなく」ではなくどういう意図で色を付けたのかを意識するようにすると、よりわかりやすい色遣いができるようになるのではないかと思います。 ### 2 色は3色で表現する では、色を選ぶポイントは何でしょうか。それは使う色の数を絞ることです。見にくい研究概要図は、1枚の中にさまざまな色が使われていることが多いです。色が多いと洗練されていない印象を与えてしまうと同時に、「見やすさ」と「わかりやすさ」の両方を損ねてしまうことがあります。では、どれくらいを目安にしたらいいのかというと、基本は3色で表現することをめざしてください。少ないという印象をもつ方もいるかもしれませんが、まずは基本として説明します。 ここでいう3色は単に3種類の色という意味ではなく、それぞれに役割があります。本書では3色をベースカラー、メインカラー、アクセントカラーという名前でよびたいと思います(図5-20)。 > **図5-20の構成:** 3色の配色バーを横並びで表示。左から順にベースカラー(最も広い面積)、メインカラー(中程度の面積)、アクセントカラー(最小面積)。 > **配色:** ベースカラー=灰色系(無彩色)、メインカラー=濃紺系、アクセントカラー=黄色系。 > **配色の面積比:** ベースカラー 70%、メインカラー 25%、アクセントカラー 5%。 ベースカラーは文字や背景の色などです。基本は白や黒、灰色の無彩色を使います。メインカラーは全体のイメージを決める色です。タイトルや文字を入れるボックスなどで使います。アクセントカラーは特に注目させたい文字や要素に使う色です。色数を役割の異なる3色に絞ることで、図全体に統一感が出ることに加え、何が重要な情報なのかも把握しやすくなります。 3色を使う際に注意したいことは、アクセントカラーを使う面積を減らすことです(図5-21)。アクセントカラーは目立たせるための色です。アクセントカラーを大量に使うと、図全体が視覚的に煩雑になり、重要情報が埋もれて目立たなくなってしまいます。目安としては、図内の面積で5%程度、感覚としては、「一番大事なところ」にアクセントカラーを絞るとよいでしょう。5%というのはあくまで目安ですが、使う量を減らすほどアクセントカラーの情報は目立つようになり、重要な情報が伝わりやすくなります。 > **図5-21の構成:** 左右に「アクセントカラーを使いすぎた例」と「使う個所を絞った例」を並列。どちらも「(1)プロセスのモデル化→(2)自動化→(3)試行と改善」というフロー図。 > **配色:** 左の悪い例ではオレンジ色のアクセントカラーが多くの箇所に使われて煩雑。右の良い例では紺色のメインカラーを基調とし、アクセントカラーは1箇所のみ。 > **ポイント:** アクセントカラーの使用面積を絞るほど、重要情報が目立つ。 ### 3 3色の選び方のポイント ここまでで、色の基本は3色ということはわかりましたね。基本の3色のうち1色は無彩色としたので考える必要はありませんが、もう2色は自分で選ばなくてはいけません。この2色は感覚だけで選べばいいのでしょうか? 色の選び方を考える前にまず、前提知識をお伝えします。色は色相、彩度、明度という3つの属性をもっています(図5-22)。色相とは赤や青などの色味のことです。彩度とは色の鮮やかさのことです。彩度が高いほど鮮やかに、低いほどくすんで灰色に近づいていき、ゼロになると白や黒になります。明度は色の明るさのことです。明度が高いほど明るく、低いほど暗くなります。最も明度が高いのは白、低いのは黒です。 > **図5-22の構成:** 3つの属性を視覚的に解説。上段:色相(赤→橙→黄→緑→青→紫のスペクトル)。中段:彩度(高い=鮮やかな色から低い=灰色への段階的変化)。下段:明度(高い=白に近い色から低い=黒に近い色への段階的変化)。 > **ポイント:** 色の3属性(色相・彩度・明度)を意識して色を選ぶ。 色選びの際は、この3つの属性を意識しながら選んでいきます。選ぶ際のポイントは次の通りです。 #### 1) アクセントカラーは目立つ色にする アクセントカラーは強調するための色なので、目立つ色にする必要があります。一般的に、暖色や彩度が高い色ほど目を引く力が強いといわれています。暖色系とは赤や黄色やオレンジ色のことです。ただし、あまりにも彩度が高い色は避けるようにしてください。視覚的にきつい印象で、見やすさが損なわれてしまいます。もう少し洗練された印象を与えるためにも、鮮やかな色は彩度を少しだけ下げ、落ち着いた色にするとよいと思います(図5-23)。 > **図5-23の構成:** 左側に「彩度が高い色」の例(鮮やかすぎる赤・黄・緑など)、右側に「落ち着いた色」の例(彩度をやや下げた同系色)。それぞれ「要因→結果」のシンプルな図で比較。 > **配色:** 左は原色に近い鮮やかな色、右は彩度を落とした落ち着いたトーン。 > **ポイント:** 鮮やかすぎる色は彩度を少し下げると洗練された印象になる。 また、メインカラーとアクセントカラーの色相の差が大きいほど、視覚的にメリハリがついてアクセントカラーが目立ちやすくなります。具体的には色相環という色相を環状に並べた色の輪のなかで、反対側近辺の色どうしを選ぶと、メインカラーとアクセントカラーの差がはっきりします(図5-24)。 > **図5-24の構成:** 色相環を中央に配置。左側に「メインカラー」、右側(色相環の反対側)に「アクセントカラー」を矢印で示す。 > **ポイント:** 色相環で反対側近辺の色を選ぶと、視覚的なメリハリがつく。 #### 2) 色のユニバーサルデザインに配慮する 人間の色の見え方を色覚とよび、これには多様性があります。さまざまな色覚のうちC型色覚は、最も多くの人があてはまるタイプで、赤と緑の色相の差を敏感に見分けることができます。一方、P型色覚とD型色覚は、赤近辺の色と緑近辺の色の識別が難しいという特徴があります(図5-25)。日本では男性の約5%(20人に1人程度)、女性の約0.2%(500人に1人程度)が、P型やD型の色覚です。また、C型色覚かどうかにかかわらず、高齢になると視界が色あせてみえるようになるため、色の識別が難しくなります。色を選ぶ際には、このような色覚の多様性に配慮する必要があります。 > **図5-25の構成:** C型色覚・P型色覚・D型色覚の3列で、同じ色の組み合わせ(赤・緑・黄緑・黄など)がそれぞれどう見えるかをシミュレーション表示。 > **配色:** C型では赤と緑がはっきり区別できるが、P型・D型では赤と緑が似た色に見える。 > **ポイント:** P型・D型色覚では赤系と緑系の識別が難しい。 多様性に配慮する方法の1つは、似た色相や、赤系と緑系を組み合わせた図をつくらないことです(図5-26)。例えばメインカラーとアクセントカラーを赤と緑にしてしまうと、P型やD型色覚の人が情報をうまく識別できなくなってしまいます。また、アクセントカラーに濃い赤を使って文字を強調しようとしても、P型色覚の人から見るとまわりの黒い文字との差が少なく、見分けることができません。 また、色どうしの明るさのコントラストを高めることも有効です。特に要素の後ろに背景色がある場合は気を付ける必要があります。例えば明るい色を背景に明るい色の文字を合わせると、コントラストが低くて読みにくいですが、暗い色の文字を合わせれば、コントラストが高いため文字が読みやすくなります。コントラストを高める方法は、P型やD型色覚の人はもちろんのこと高齢者にとっても見やすくなりますし、グレースケール印刷の場合でも判別しやすいため、有用な方法です。 > **図5-26の構成:** C型・P型・D型色覚の3列で、上段に「区別しにくい組み合わせ」(赤背景に文字、緑背景に文字など)、下段に「改善例」(コントラストを高めた組み合わせ)を表示。 > **ポイント:** 赤と緑の組み合わせを避け、明るさのコントラストを高める。 このほかにも、情報の区別の方法を色だけに頼らないようにする方法もあります。例えば、折れ線グラフをつくる場合、どの折れ線が何を示すのかは、色だけではなく配置(項目名を折れ線の近傍にする)や形(線やマーカーの形状を変える)をヒントに伝えることができます(図5-27)。 > **図5-27の構成:** 左に「色に区別を頼っている例」(凡例のみで色で区別する折れ線グラフ)、右に「色以外のヒントを活用した例」(線の近傍にラベル配置、マーカー形状変更)。 > **ポイント:** 色以外にも配置や形状など、複数のヒントで情報を区別する。 #### 3) ターゲットに与えたいイメージを考える 色には、色ごとに連想される心理的なイメージがあります。このため、ターゲットに与えたい印象に合わせ、色のイメージを根拠に色を選択するのもよいかもしれません。色の一般的なイメージは表5-2にあるとおりです。ただし、色のイメージは色味だけでなく彩度や明度、色の組み合わせによっても変わりますので、絶対的ではないことに注意してください。ここにない色については、色のイメージを紹介しているウェブサイトや書籍はたくさんありますので、簡単にでも調べてみるとよいと思います。 **表5-2 色の主なイメージ** | 色 | イメージ | |---|--------| | 赤 | 情熱・力強い・アクティブさ・熱さ・興奮・怒り・危険 | | オレンジ | 活発・温かさ・明るさ・陽気さ・親しみやすさ・賑やかさ | | 黄 | 明るさ・元気・希望・活動的・幸福・エネルギー・気軽さ・警告 | | 緑 | 穏やかさ・調和・自然・平和・平穏・新鮮・安らぎ・さわやかさ・森林 | | 青 | 冷たさ・理性的・清涼感・平和・静寂・清潔・若さ・水 | | 紫 | 上品・優雅・神秘・古典的・伝統・知性・妖艶 | | 茶 | 温もり・大地・安定・安心・質素 | | 白 | 純粋・清潔・正義・平和・冷たい・軽い | | 灰 | 落ち着き・控えめさ・中立・洗練・憂鬱・不安 | | 黒 | 暗闇・重厚感・高級感・都会・清貧・孤独・恐怖・死 | ### 4 色選びに迷ってしまう場合は ここまでメインカラーとアクセントカラーを選ぶ際のポイントを説明しましたが、それでも色を選ぶのが難しいと感じる人も多いかもしれません。そういうときは、他者の色の組み合わせを参考にするとよいと思います。色の組み合わせ自体には著作権はありませんので、真似をすることが可能です。プロがつくったものは、図にしてもスライドやウェブサイトのデザインにしても、メインカラーやアクセントカラーの区別が明確なものが多いです。そしてプロがつくった制作物はインターネット上で大量に公開されています。画像検索などで自分がいいと思った配色の制作物を探し、それを参考にして配色を考えると色を決めやすくなります。 また、世の中には配色で悩んでいる人を支援するサイトやツール、書籍がたくさんあります。「配色」と「ツール」「パターン」「パレット」などのキーワードを組み合わせて検索をしてみてください。色の組みあわせを提案してくれるウェブサイトやオンラインツールが大量に見つかります。有名なものとしては「Color Hunt」(https://colorhunt.co/)などがあります。 また、カラーユニバーサルデザイン機構(https://cudo.jp/)のウェブサイトでは色覚の多様性に配慮した「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット」を配布しています。このセットではアクセントカラーとメインカラー(ベースカラー)、無彩色(白黒のほか、灰色)の候補を紹介してくれていますので、それを参考にしてもいいと思います。 ちなみに筆者の場合は、メインカラーとアクセントカラーをゼロから自分で考えることもありますが、既存の配色情報を参考にすることも多いです。最初にメインカラーの方向性(紺色系にするなど)をターゲットや依頼者・自分の好みなどに合わせて決めたあと、色の組み合わせを紹介してくれている書籍やサイトのなかで希望のメインカラーに近い色を探し、その色と相性のよい組み合わせとして紹介されている色のなかからアクセントカラーを選ぶことが多いです。 色の組み合わせは、地域や年齢、個人などによっても好みの方向性が異なりますので、これが絶対によいという唯一の正解はありません。多くの人にとって見やすく、かつ自分にもターゲットにも合っていると思われる色の組み合わせを、自分なりに選んでいくことになります。図をつくるたびに考えるのは大変なので、自分のメインカラーとアクセントカラーを決めてしまうと作業がはやくなります。PowerPointでは「テーマの色」に好きな色を登録する機能がありますので、自分の配色を登録しておくと便利です。スライドも図も毎回同じメインカラーとアクセントカラーを使って制作していれば、利用したときもほかのスライドや図と統一感が出ますし、見ただけで「○○先生のスライド・図だ」と覚えてもらえるようになって、自らのブランディングにもつながります。 ### 5 色を増やしたいときは馴染みのよい色を利用する なお、色数は減らしたいけれど、区別したい図の要素が多くてどうしても3色では表現できないということもあると思います。このような場合の対応策の1つは、加える色にメインカラーやアクセントカラーに似た色を選ぶことです(図5-28)。色相環で近い位置関係にある色は色味が似ているため、馴染みやすく感じます。また、同じ色相で、明度や彩度を変えた色を使うのも有効です。色の統一感は出しつつ、色にバリエーションが出ます。 > **図5-28の構成:** 左側に「似た色合いの例」(色相環で近い位置の色のパレット)、右側に「彩度・明度が違う色の例」(同じ色相で明度・彩度を変えたグラデーションパレット)。 > **配色:** 左は青・青緑・緑など近い色相のバリエーション。右は1つの色相で淡い色から濃い色まで段階的に変化。 > **ポイント:** 色を増やす場合は、近い色相の色や同色相の明度・彩度違いを使うと統一感を保てる。 あるいは、特に目立つ必要がない要素であれば、ベースカラーである灰色や、メインカラーで統一して描いてしまう方法もあります。例えば10個の要素があったとき、すべて違う色合いにする必要はありません。むしろ色を変えない方が、全体を把握しやすくなることもあります。 メインカラーやアクセントカラーを増やすことも可能です。アクセントカラーを増やす場合は、色数を増やしたとしてもアクセントカラーを利用した面積の合計ができるだけ少なくなるように抑えてください。 熱帯の生物など、カラフルな見た目の要素のイラストを入れる場合、それだけで何色も使ってしまうという場合もあると思います。対象の色を表現したい場合はある程度色が増えることはしかたありませんが、使う色どうしの彩度や明度を揃える(淡い色に統一するなど)ことで、ある程度バランスのとれた印象になります。