--- title: "3 文字を見やすく表現する" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第5章 図の見た目を整理する:理解を促すビジュアルデザイン section: 3 pages: 117-124 images: page_0117.png ~ page_0124.png keywords: ["フォント", "視認性", "パワーポイント", "Before/After", "視覚的重み"] --- ## 3 文字を見やすく表現する ### 図における文字の重要性 文字は図の中の重要な要素です。私が以前行ったジャーナルグラフィカルアブストラクトの調査では、少なくとも調査対象のなかには文字が1つも入っていないグラフィカルアブストラクトは一枚もありませんでした。図はグラフィカルに見せたほうがいいですが、文字もなくてはならない存在です。 文字は情報を担うものですが、同時に視覚的に見るものでもあります。文字の見た目や太さなどを調整することによっても、視覚的な整理をすることができます。 ### 研究概要図に適したフォント 文字を考える際にまず気になるのはフォントの種類だと思います。フォントにもさまざまな種類があり、スタンダードで読みやすいものや、その図の雰囲気を演出するもの、装飾的で目を引くものなどがあります。目的によって選ぶべきフォントは異なりますが、ここでは研究概要図に適したフォントの選び方を紹介していきます。 研究者がよく利用する日本語のフォントには、明朝体とゴシック体という2つのフォントのタイプがあります(図5-15)。明朝体は横線に対して縦線が太いという特徴があり、線の端などにウロコとよばれる装飾があります。これに対してゴシック体は全体がだいたい同じ線の太さになっています。欧文の書体もほぼ同じタイプがあります。セリフ体は明朝体のように横線に対して縦線が太く、セリフとよばれる装飾があります。Times New Romanなどが有名です。サンセリフ体は、ゴシック体のように線の太さがだいたい同じフォントです。HelveticaやArialなどが有名です。 これらのフォントには読みやすさ(可読性)と見やすさ(視認性)に違いがあります。明朝体やセリフ体は、「可読性が高い」といって、長い文書を読むのに適しています。何行も続く文章を書くときは、明朝体やセリフ体を使った方が、読み手を疲れさせにくいです。一方、ゴシック体やサンセリフ体は「視認性が高い」といい、字が明確に認識できます。遠くから見せるプレゼンテーションスライドなどにはゴシック体やサンセリフ体が適しています。 > **図5-15の構成:** 4つのフォントタイプを2x2のレイアウトで比較。 > - **明朝体:** 大きな「字」の文字で示す。横線の方が細い、ウロコがある。→ **可読性が高い** > - **セリフ体:** 大きな「A」の文字で示す。横線の方が細い、線の先端にセリフがある。→ **可読性が高い** > - **ゴシック体:** 大きな「字」の文字で示す。縦と横の線幅がほぼ同じ、ウロコがない。→ **視認性が高い** > - **サンセリフ体:** 大きな「A」の文字で示す。縦と横の線幅がほぼ同じ、セリフがない。→ **視認性が高い** > **ポイント:** 研究概要図には短いフレーズが多いため、視認性の高いゴシック体・サンセリフ体が適している。 研究概要図の場合、基本的に何行にもわたるような文章は入れず、単語や短いフレーズが入ります。このため、長文を読むのに適した明朝体やセリフ体よりも、目立ってよく見えるゴシック体やサンセリフ体の方が適しています。ゴシック体・サンセリフ体からフォントを選ぶようにしましょう。 では、ゴシック体やサンセリフ体のなかでも、シンプルでしっかり見えるフォントは具体的にどれなのでしょうか。WindowsとMacで使えるデフォルトのフォントは異なりますが、和文の場合、Macならばヒラギノ角ゴが、WindowsならばBIZ UDPゴシック、游ゴシック、そして2025年に追加で標準搭載された日本語フォントのNoto Sans JPがおすすめです(図5-16)。なお、BIZ UDPのUDとはユニバーサルデザインのことで、誰にとっても読みやすくデザインされたという意味です。欧文の場合、MacならばHelvetica、WindowsならばArialやCalibri、Segoe UIなどが見やすく使いやすいと思います(図5-16)。 > **図5-16の構成:** 左右2列でゴシック体とサンセリフ体のおすすめフォントを列挙。 > - **ゴシック体(和文):** ヒラギノ角ゴシック、メイリオ、游ゴシック、BIZ UDPゴシック、Noto Sans JP > - **サンセリフ体(欧文):** Helvetica、Arial、Calibri、Segoe UI > **ポイント:** 各フォント名がそのフォント自体で表示されており、見た目の違いが比較できる。 なお、フォント名のなかには「BIZ UDゴシック」と「BIZ UDPゴシック」のように、Pが入るものとPが入らないものがあると思います。このPはプロポーショナル(Proportional)のPで、Pがついている方のフォントはプロポーショナルフォントという意味になります。プロポーショナルフォントは、それぞれの文字の大きさや形に合わせて文字間隔が調整してあるため、読みやすい文字組になります。これに対してPのついていないフォントは等幅フォントといい、どの文字も幅が同じサイズになります。等幅フォントは桁を揃えたりする際には見やすいのですが、細い文字だと余白が多くなって文字の間に隙間があるように見えてしまい、読みにくいことがあります。このため、図で利用する際には、プロポーショナルフォントを選ぶのがおすすめです。 ### フォントの使い方のポイント **1. 装飾的なフォントや演出は選ばない** 研究概要図の文字の一番の役割は、情報を伝えることです。このため、できるだけシンプルで見やすいフォントが適しています。ゴシック体以外にポップ体・手書き風などの装飾的なフォント(デザイン書体)を使いたいという人もいるかもしれませんが、このようなフォントは研究概要図には適していません。研究概要図は図の中に多くの要素が入ることが多いため、フォントが装飾的だと視覚的に情報過多な印象を与えたり、バランスが崩れて整理されていない印象を与えたりしてしまいます。また、文字に陰影や光沢をつけるなどの装飾的な演出もできるだけしない方が、情報が伝わりやすくなります。 **2. 和文には和文フォント、欧文には欧文フォントを使う** 和文フォントには、通常どのフォントにもアルファベットや数字の文字が登録されています。しかし、そのような場合でも欧文を書く際には和文フォントを使わないようにしてください。なぜかというと、和文フォントのなかには、欧文の文字がきれいに見えないフォントがあるためです。文字の詰め方が不揃いに見えてしまう場合や、可読性が低い場合もあります。このため、欧文には欧文フォントを使った方がきれいに見えます。 また、日本語の文章のなかにところどころ英語や数字が入ってくる場合など、和文フォントと欧文フォントが混ざることもあるかもしれません。欧文フォントは和文フォントに比べてやや小さいことが多いため、和文フォントと欧文フォントが混ざるとサイズがばらついて見えます。これに対応するには、欧文フォントにSegoe UIを使う方法があります。Segoe UIであれば文字の大きさが和文と揃って見えますので、図の中で和文と欧文が混ざる場合に読みやすくなります。 なお、ヒラギノ角ゴ、BIZ UDPゴシック、Noto Sans JPは欧文も比較的きれいに見えます。和文と欧文が混ざる場合、いちいち欧文を別指定したくないという場合はこれらの和文フォントで統一してしまってもいいかもしれません。ただし、和文のない、欧文のみの図をつくる場合は、欧文フォントを使った方がきれいに仕上がります。 **3. 一枚の図で使うフォントの種類を限定する** 1枚の図で使用するフォントは、基本は1種類、多くても2種類程度にしてください。和文と欧文が混ざる場合は2種類以上でも構いませんが、何種類ものフォントを使うと、統一感がなく、散らかって見えてしまいます。 ただし、次に紹介する同じフォントファミリーのフォントであれば統一感を維持できますので、太字とレギュラーと細字など、何種類か使っても問題ありません。 **4. 強調にはフォントファミリーを活用する** 文字を強調する際、太さの違いはぜひ活用したいところです。太い文字は通常の文字よりも目立つため、大事な情報であることがすぐにわかります。太さをうまく使いこなすだけでも、図を視覚的に整理することが可能です。 太さの変更で注意したいのは、文字をPowerPointなどの太字機能、すなわちBボタンで太くするだけでは、見やすくならないことがあるという点です。例えば、MSゴシックの文字に対してBボタンを押すと、擬似ボールドといって機械的に太くしただけのフォントになります。デザイナーが見やすくデザインした太字フォントではないので、太字ではないフォントとの太さの違いがあまりわかりません。太字を使う際には擬似ボールドではなくフォントファミリーを利用するのが有効です。 フォントファミリーとは、似たデザインで太さなどにバリエーションをもつフォントのグループのことです(図5-17)。フォントファミリーには、ふつうと太字の2種類のみのフォントもあれば、細字や極太など何種類もあるフォントもあります。フォントファミリーのフォントは擬似ボールドと違い、デザイナーが太さの違いがわかるようデザインしてくれているので、太さを変えたときでも差がわかりやすいです。 フォントファミリーを探すには、フォント一覧のなかでフォント名に「W3」などの数字や「Bold」「B」などの文字が入っているかどうかで判断します。ヒラギノの場合は「W3」「W6」などと表示され、数字が大きいほど太くなります。Windows製品の場合には、フォント一覧のなかで「B」などが入った太字フォントを選択する方法と、Bボタンを押してフォントファミリーのなかの太字フォントにする方法があります。 気を付けたいのは、Bを押したときに擬似ボールドになるフォントと、フォントファミリーのなかの太字フォントに置き換わるフォントの2パターンがあることです。例えばWindowsの游ゴシックは「游ゴシック Light」、「游ゴシック(Regular)」、「游ゴシック Medium」に加えて「游ゴシック」をBボタンで太字にした際に表示される「游ゴシック Bold」の4種類があります。「游ゴシック Light」と「游ゴシック Medium」はBボタンを押しても擬似ボールドにしかなりません。太字を使いたいときは必ず「游ゴシック」をBボタンで太字にするようにします。 一方、「BIZ UDPゴシック」には、そのままのふつう(Regular)とBボタンを押したときに置き換わって表示される太字の「BIZ UDPゴシック Bold」があります。こちらはBボタンを押すだけなので、覚えやすいと思います。 図を作成するときには、太字とふつうのフォントの違いがはっきりわかるフォントファミリーのフォントを選ぶと、メリハリがつけやすく、重要情報がどれなのかが伝わりやすくなります。基本は、タイトルや見出し、重要箇所は太字とし、それ以外はふつうのフォントにするようにしてください。 > **図5-17の構成:** 3つのフォントファミリーのウェイト一覧を並べて表示。 > - **ヒラギノ角ゴシック:** W0〜W9の10段階。W0が最も細く、W9が最も太い。各ウェイトで「ヒラギノ角ゴシック WX」と表示。 > - **游ゴシック:** Light、Regular、Medium、Boldの4種類。 > - **BIZ UDPゴシック:** Regular、Boldの2種類。 > - **Noto Sans JP:** Thin、Light、DemiLight、Regular、Medium、Bold、Blackの7種類。 > **ポイント:** フォントファミリーを活用することで、擬似ボールドではなくデザインされた太さの違いでメリハリをつけられる。 ### 文字の大きさを調整する 図の中の文字のサイズの調整も、視覚的に整理するうえで重要です。1つの図の中で使うフォントのサイズは、タイトル(ある場合)/見出し・強調/通常の文字/補足、という分け方で3〜4種類に絞っておくと統一感が出ます。 和文の場合、見出しや強調したい文字のフォントサイズは11 pt以上です。それ以外の通常の文字は9〜10 pt程度、読む必要性が低い補足事項は8 pt程度です。10 ptを切ると高齢の方や視力の弱い方には見えない可能性がありますが、すべての文字を11 pt以上にするとメリハリが失われてどれが重要情報なのか読み取りにくくもなります。絶対に読んでもらいたい情報の文字サイズと、読みたい人が読む補足的な情報の文字サイズを区別し、メリハリをつけることが重要です(図5-18)。 > **図5-18の構成:** 左右比較。テーマは「〇〇国のレアメタルの輸出量の変化の要因の特定」。 > **Before(文字にメリハリがない例):** タイトル、仮説、検証、分析名などすべての文字が同じサイズ・同じ太さで表示されている。どれが重要情報か判別しにくい。 > **After(大きさと太さに変化を加えた例):** タイトル「〇〇国のレアメタルの輸出量の変化の要因の特定」が大きく太字で強調。「仮説」「検証」などの見出しも太字。「鉱山資源の枯渇への懸念」「隣国からの圧力」などの内容テキストは通常サイズ。「政府文書と報道の分析」「国際文書と報道の分析」は補足的なサイズ。 > **ポイント:** サイズとフォントファミリーの太さを組み合わせることで、情報の階層が視覚的に明確になる。 欧文の場合は、通常の文字は10〜14 pt程度を目安にし、補足事項は8 pt以上、見出しはそれより大きくして調整します(表5-1)。グラフィカルアブストラクトの場合はジャーナルによってはガイドラインでサイズを指定していることもありますので確認して合わせるようにしてください。なお、メリハリをつける際には、サイズとともにフォントファミリーも活用して文字の太さを調整するとさらにしっかりとメリハリがつきます。 一般に印刷物の最小の文字サイズは6 ptといわれていますので、読まれなくてもいいけれどどうしても掲載しなければいけない文字などがある場合でも、6 pt以上になるようにしてください。 **表5-1 図の文字サイズの目安** | | 和文フォント | 欧文フォント | |---|---|---| | 見出し | 11 pt以上 | 14 pt以上 | | 本文 | 9〜11 pt | 10〜14 pt | | 補足 | 8 pt以上 | 8 pt以上 |