--- title: "2 レイアウトを整理する" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第5章 図の見た目を整理する:理解を促すビジュアルデザイン section: 2 pages: 105-116 images: page_0105.png ~ page_0116.png keywords: ["レイアウト", "余白", "視認性", "矢印", "視覚的重み", "パワーポイント", "Before/After"] --- ## 2 レイアウトを整理する ### 視線には流れがある よりわかりやすくするためにレイアウトを整える作業をします。その際にまず考えるべきことは視線の流れです。 人の視線、すなわち見る順番に法則があります(図5-3)。テキストが横書きの科学的な図の場合は、基本は左から右、上から下に向かって視線は移動します。文字の折り返しなどがある場合は、Z型すなわち左から右に移動してから少し下の左に戻り、また左から右に移動する流れもあります。このため、基本は図もこの順番で見られると考えてください。 > **図5-3の構成:** 3つの視線パターンを矢印で図示。 > - **左から右:** 水平方向の矢印(→) > - **上から下:** 垂直方向の矢印(↓) > - **Z型:** 左上→右上→左下→右下のジグザグパターン(N字を左右反転した形) > **ポイント:** 横書き文化圏における視線移動の3つの基本パターンを示す。 ### 理解にも流れがある 図によってわかりやすく情報を伝えるには、読み手がどんな順番で情報を理解していくかも大事なポイントです。特に研究概要図のように論理と納得感を重視する図の場合は、適切な順で図を見て理解してもらうことが重要です。例えば、「AはBである。BはCである。ゆえにAはCである」という文章は、論理的文章です。この文章の順番を変えて「AはCである。ゆえにAはBである。BはCである」と表現してしまうと論理的には不正確になり、読み手は意味に納得ができません。 研究者にとって順番の重要性は当たり前のように思うかもしれません。しかし、図になると急に理解の順番への意識が低くなり、どういう順番で見たらいいのかわからない図をつくってしまうことがあります。正しい図の順番がわからなければ理解するのに負担がかかりますし、誤った順番で図を見てしまうと、理解できなくなる可能性もあります。 ### 視線の流れと理解の流れを合わせる ではどうしたら意図通りの順番に図を見てもらえるのでしょうか。ポイントは視線の流れと理解の順番をできるかぎり一致させることです。人は視線の流れに沿って理解していきますので、視線の流れに抗わずに情報を配置していけば、自然に意図通りの順番で見てくれます。 > **図5-4の構成:** 左右比較で視線の流れの改善を示す。 > **Before(目線の流れが悪い例):** 視線のスタートが左下にあり、下から上方向の矢印が含まれている。XYZ Culture、Active Cells、A cell〜D cellなどの要素が視線の自然な流れに逆らって配置されている。全体の流れが把握しにくい。 > **After(改善例):** MethodとResultsを上下または左右に分け、それぞれを左から右に流れるように再配置。Method(Animals models → XYZ Culture)とResults(ABC analysis、Active Cells、Binding グラフ)が整然と配置され、視線の流れと一致。 > **ポイント:** 単純な流れの方がぱっと見の印象もわかりやすさも向上する。 実は、視線の流れはプロのデザイナーが非常に重視する点です。私はプロのイラストレーター・デザイナーに、グラフィカルアブストラクトをつくる際に何を意識するかインタビュー調査をしたことがありますが、全員一致、かつ最重要視といっていいレベルで意識していたのが視線でした。逆に、図の作成が苦手な研究者の作成した図は視線の誘導がうまくできておらず、内容が理解しにくいことも多いです。できるかぎり視線に合わせて要素を置いていくこと。これがわかりやすい図の基本ですので、ぜひ意識するようにしてください。 ### どうしても視線の流れに合わせられないとき 図によっては、どうしても視線の流れ通りに要素を配置できない場合もあるかもしれません。その場合にはどう工夫したらいいでしょうか。 **1. 要素の数を減らす** 前提として、要素や矢印の数が多すぎるとそれだけでいったい何からどういう順番で見たらいいか混乱します。できるだけ数を減らし、シンプルにすることをめざしてください。 **2. 番号を振る** 読んでほしい順番に番号を振る方法もあります。読んでほしい情報ごとに(1)(2)(3)...やa. b. c. ...などを入れることで、読むべき順番を明記することができます。ただし、番号が10以上になるなど数が多い場合は、読み手の意欲が低下する原因になりますので、できるだけ数は減らす必要があります。 **3. 逆行する意味を明確にする** 視線に逆行する矢印を含む図の場合は、逆行に明確な意味をもたせるようにします。例えば「高みにあるゴールに向かう」「バックキャスティング」などはあえて矢印を下から上に向けることで、その意味を強調することができます。「フィードバック」や「回転」なども右から左に逆行する矢印が入る可能性があります。逆行する数や関係する要素の数をできるだけ抑え、テキストで逆行する理由を明示すれば理解しやすくなります。例えば右から左の矢印のそばに「フィードバック」という文字を入れるなどの工夫です。 **4. 矢印の長さや角度を揃える** 科学的なカスケードなど、矢印や要素の数を減らすことが性質上不可能という場合は、矢印の向きや長さ、位置などをできるだけ揃えることで、ある程度流れが読み取りやすくなります(図5-5)。特に多数の矢印がある場合に、指す方向の角度がバラバラだと乱雑に見えますので、矢印の角度を水平・垂直・45度方向に限定するなどルールを決めると、すっきりとして見えます。 > **図5-5の構成:** カスケード図の例。proteinXとproteinYを起点に、A+、B↑、C+、D↑、E↓などの要素が矢印で接続され、最終的に〇〇 Diseaseに至る。 > **ポイント:** 矢印の角度が水平・垂直・45度方向に統一され、長さも揃えられている。多数の矢印があっても整然とした印象を与える。 **5. 要素の大きさを変える** 人は大きな要素から小さな要素の順に見ていく傾向があります。このため、最初に見てほしい要素を大きく描くという方法もあります(図5-6)。特に、中心から周辺に向かって流れる円形レイアウトなどの場合は、中央の情報を大きくすることで、中央→周辺の順番で見てもらいやすくなります。 > **図5-6の構成:** 左右比較。円形レイアウトで中央に「融合新領域の確立」、周囲にA学〜F学が配置。 > **Before(全てが同じ大きさ):** 中央と周囲の要素がすべて同じサイズの円で描かれている。どこから見ればよいか不明確。 > **After(中心を大きくする):** 中央の「融合新領域の確立」が大きな円で描かれ、周囲のA学〜F学は小さめの円。視線が自然に中央→周辺の順に流れる。 **6. まとまりごとに見せたい場合は色や形を似せる** 人は見た目が似たものをまとめて見ていく傾向があるため、まとめて見てほしい情報は同じ形や同じ色にしておくと、まとまりごとに見てくれます(図5-7)。 > **図5-7の構成:** 左右比較。テーマは「〇〇課題の解決」で、現状分析・意識調査・地域でのイベント・対策の提案・要因の特定・学校での教育実践の6要素。 > **Before(全て同じ表現):** すべての要素が同じ色・形で表現され、グループの区別がつかない。 > **After(見た目でまとまりを出す):** 要素が色や形で分類され、関連する要素群が視覚的にグループ化されている。 > **ポイント:** 同じグループの要素に同じ色・形を使うことで、まとまりが一目でわかる。 図の中で視線を誘導する方法をいくつか紹介しましたが、わかりやすくするうえでは視線の自然な流れに合わせることの方が強力です。基本は視線の流れと理解の流れが合うように配置してください。 ### 視線の流れのその他の注意点 研究者がよくつくってしまう図としては、複雑なチャートになっていて、どこから見はじめたらいいのかわからず、どこに結論があるのかもわかりにくいというタイプがあります。視線のスタートとゴールがわからないと、読み手の図を理解しようとするモチベーションが下がってしまいます。要素の多い複雑な図の場合は、図に入れる情報をしぼることはもちろんですが、スタートとゴールを色や大きさ、文字などで強調すると、迷子になりにくくなります。 ### 関連性の高い情報をグループ化する 図の中の要素をレイアウトする際、ついつい空いているスペースに適当に要素を配置してしまいがちです。しかし実は、要素間の距離を考えることは重要です。なぜなら、人は情報が近い位置にあると関連性が強いと捉える傾向があるためです。たまたま近い位置に集めた要素が関連事項だと誤解されないよう、要素どうしの距離にも配慮が必要です。距離はぱっと見でも判別される情報なので、視覚的に整理するうえで特に気をつけるべき項目でもあります。 レイアウトの際には、関連性が高い要素は位置を近づけてグループ化するようにしてください(図5-8)。そうすれば「関連している要素群」であることがすぐに伝わります。また、関連性が低いものの間にはしっかり余白をとると、意味の違いが理解しやすくなります。 > **図5-8の構成:** 左右比較。テーマは「A analysis」「B analysis」の実験結果。 > **Before(グループ化していない例):** 分析名、グラフ、動物モデル画像、結論文(The ABC diet is more effective)などが等間隔でバラバラに配置。関連性が読み取りにくい。 > **After(グループ化した例):** A analysisとB analysisがそれぞれのグラフ・データと近接して配置され、グループとして認識できる。N=50、体重変化グラフ、One month、結論文が論理的にまとまっている。 > **ポイント:** 関連性が高い情報同士の間の余白を狭く、関連性が低い情報同士の間の余白を広めにする。 ### 要素の配置を揃える 図がすっきりしない印象を与えるときは、配置に統一感がないことが多いです。文字や図形などの要素が揃っておらず、配置がガタガタしていたり、余白の間隔がバラバラだったりすると散らかった印象を与えます。要素をきっちり揃えることで、整然した印象を与えると同時に、同じ位置づけや階層の情報がどこにあるかも捉えやすくもなります(図5-9)。 文字の揃えについては、代表的には左揃え、右揃え、中央揃え、両端揃えがありますが、基本は左揃えが読みやすいといわれています。左が揃っていると、文章を読んだときに視線が戻る位置が固定され、安定して見えるためです。中央揃えは文字数が少ないときには見やすいのですが、複数行ある文章の場合は読みにくく感じます。中央揃えはタイトルや見出し、単語のみにし、箇条書きや複数行続く補足文などは左揃えに統一すると読みやすいと思います。両端揃えは、文章の先頭と折り返し部分の両方(左端と右端)が揃えられ、最終行だけ左揃えになる揃え方です。両端揃えも左端が揃い、見た目もきれいになるのでよいのですが、文字の間隔が不自然になりやすいというデメリットがあります。このため、両端揃えは文字の間隔にあまり違和感がない場合ならば使ってもよいと思います。 図形やイラストなどの文字以外の要素の揃えも重要です。要素どうしの上下左右・中央の配置の揃えや、要素間の余白の大きさ、図全体の上下左右の余白の大きさもできるだけ揃えます。 > **図5-9の構成:** 左右比較。3ステップのプロセス図((1)プロセスのモデル化 → (2)自動化 → (3)試行と改善)。 > **Before(位置を揃えていない例):** 各ステップの要素(Aモデリング、Bモデリング、Cモデリング、〇〇デバイス、自動化プロセス、チェック、テストモデルの確立)の位置がバラバラで、間隔も不統一。 > **After(位置を揃えた例):** 各ステップ内の要素が左揃えで統一され、ステップ間の間隔も均等。要素の上端・左端が揃い、整然とした印象。 > **ポイント:** 要素はアプリケーションの「オブジェクトの配置」機能で揃えられる。グリッドとガイドを利用するとさらに作業しやすい。 ### グリッドとガイドを活用する レイアウト作業の際は、文字やイラストなどを配置する目安となる補助線であるグリッドやガイドを表示すると、要素を揃えやすくなります。グリッドとは、デザインする画面上に表示される規則的な格子状の補助線のことで、ガイドとは自分で好きな場所に配置できる水平または垂直の補助線のことを指します。グリッドとガイドはあくまで作業用のガイド線なので、作業中は表示できますが、完成品として画像や印刷を出力しても表示されません。 グリッドは方眼ノートのようなものです(図5-10)。全く真っ白な画面上だと位置や間隔、要素の大きさが揃えにくいため、視覚的に雑然としやすくなります。グリッドを目安にすれば、同じ水平線に要素の位置を揃えたり、いくつかの要素のサイズを同じ3マス分にしたりと、わざわざ座標を確認しなくても直感的に揃える作業ができるので便利です。 > **図5-10の構成:** PowerPointの画面キャプチャ。スライド上に格子状のグリッド線が表示されている。表示タブからグリッド線を有効にした状態。 > **ポイント:** グリッドにより位置・間隔・サイズを直感的に揃えられる。 ガイドもグリッドと同様に位置や大きさを揃える際の目安になります(図5-11)。グリッドと違って好きな場所に引くことができるため、よく使う揃えの線はガイドで表示すると作業が楽になります。ガイドをどこに引けばいいか迷うところかもしれませんが、研究概要図の場合の基本は、水平・垂直の中心線と、上下左右の余白をつくる線です。水平・垂直の中心線は、あれば左右上下でバランスをとる作業がしやすくなります。上下左右の余白は、横幅の数%くらいあると見やすくなるといわれています。スライドの少し内側に上下左右計4本の直線を引き、この範囲より外側には要素や文字は入れない(背景色のみ可)というルールを決めておけば、余白をとりやすくなります。 > **図5-11の構成:** PowerPointの画面キャプチャ。スライド上に水平・垂直の中心線および上下左右の余白ガイド線が表示されている。 > **ポイント:** 中心線でバランスをとり、余白ガイドで要素の配置範囲を制限する。 その他にもガイド線は足すことが可能です。例えばレイアウトを横に3分割したいという場合は3分割の位置にガイドを入れる、複数の要素の上端を合わせたいという場合は、希望する上端の位置にガイドを追加するなど、揃えの作業がやりやすくなる位置にガイドを作るとよいです。ただしガイド線があまりにも多いと画面が線だらけで見にくくなりますので、作業のしやすさを意識しながら追加してください。 ガイドとグリッドはレイアウトができる多くのアプリケーションで設定が可能です。PowerPointであれば「表示タブ」のグリッド線、ガイドにそれぞれチェックを入れれば表示できますし、Adobe製品はもちろん、フリーソフトでも表示できるものがあります。各アプリケーションでの表示のしかたはインターネットで検索するなどして確認してみてください。また、グリッドとガイドは両方あると画面が見にくくなりやすいので、どちらか使いやすい方だけを利用するので問題ありません。 ### 余白はどこに入れるのか レイアウトの最後のお話は余白です。余白はただの「余った空間」と思われがちですが、実はわかりやすさや関心の引きやすさに直接的に影響を与えます。もしも余白が足りなければ、落ち着きのない窮屈な印象を与え、視覚的に見にくい図になります。さらには余白がないと情報のまとまりも認識しにくくなります。 では、研究概要図にどのような余白を入れるのがよいのでしょうか。以下に主なものをまとめてみます。 **1. 図の上下左右に入れる** 余白を入れる基本の場所は、図の上下左右の内側です(図5-12)。スライドでいうと、だいたい1文字分以上の余白、割合でいうと、横幅の数%くらいの余白があると、見やすくなるといわれています。厳密に考える必要はありませんが、余白がほとんどない状態は避けてください。図の外枠ギリギリにある要素や文字が見にくくなることがあります。 > **図5-12の構成:** 左右比較。テーマは「〇〇国のレアメタルの輸出量の変化の要因の特定」。 > **Before(左右上下に余白がない例):** タイトル、仮説(鉱山資源の枯渇への懸念、隣国からの圧力)、検証(分析(1)政府文書と報道の分析、分析(2)国際文書と報道の分析)がスライドの端ギリギリまで配置され、窮屈な印象。 > **After(余白を加えた例):** 同じ内容だが、図の上下左右に余白が確保され、すっきりとした印象。要素間にも適度なスペースがある。 **2. 関連性の低い要素の間に入れる** 「6 関連性の高い情報をグループ化する」の項目でも説明した通り、余白は情報のまとまりを見せるためにも必要です。大きなレイアウト同士の間や要素の間など、異なる性質の情報の間に余白を入れることで、情報のまとまりを認識しやすくなります。基本は、関連性が高い情報同士の間の余白を狭くし、関連性が低い情報同士の間の余白を広めにしてください。 **3. 図形のアウトラインと文字の間に入れる** 四角形や円の図形といったボックス内に文字を置く場合は、図形のアウトラインと文字の間に余白をとると、文字が境界線と離れるため、視覚的に文字を読み取りやすくなります(図5-13)。 > **図5-13の構成:** 左右比較。4つのステップ(社会課題の分析→課題の特定→解決策の提案→解決策の実践)がボックスで表現されている。 > **Before(ボックス内に余白がない例):** テキストがボックスの枠線ギリギリに配置され、窮屈で読みにくい。 > **After(余白を加えた例):** ボックス内にパディングが確保され、テキストと枠線の間に余白があり、読みやすい。 ### 余白をとるのが難しい場合は 情報量が多くてなかなか余白がとれないという場合は、文字や要素のサイズをひとまわり小さくすることも検討してください。もちろん、文字の大きさが小さいと読みにくくはなりますが、余白がないことによる見にくさの方が深刻な場合もあります。以前、プロのデザイナーが「なんでみんな文字のサイズを小さくすることあんなに嫌がるのか」と話しているのを聞いたことがあります。文字のサイズと余白のどちらを優先すべきなのかは、ターゲットや制作者の年齢や価値観によっても異なります。迷ったときは試しに文字や要素を小さくして余白を増やしてみて、余白を減らした場合と比較して検討してみてください。 ### 余白のバランスをとる 逆に、意図のない不自然な余白、すなわち図のなかで一部分だけたまたま大きくあいてしまった空間は、図全体のバランスが悪くなることがあるのでできるだけなくなるように調整します。余白を調整する方法としては、余白を一カ所に集めるのではなく分散させてバランスをとる方法や、要素を大きくする方法、情報を追加するなどの方法があります(図5-14)。 > **図5-14の構成:** 左右比較。 > **Before(余白のバランス悪い例):** 図の一部に大きな空白が偏っており、全体のバランスが崩れている。ABC Cell↑、DEF-1↑などの要素が片寄って配置。 > **After(バランスをとった例):** 余白が分散され、要素が均等に配置されて全体のバランスが整っている。 > **ポイント:** 余白は分散させるか、要素のサイズ調整・情報追加で解消する。