--- title: "4 説明不足を解消する" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第4章 図の中身を整理する:ラフ案のブラッシュアップ section: 4 pages: 98-100 images: page_0098.png ~ page_0100.png keywords: ["情報整理", "ターゲット", "メッセージ"] --- ## 4 説明不足を解消する ### 1 説明不足とは何か 第4章-3で、研究者は情報を盛り込みたがる傾向があると書きましたが、研究者の図では情報が足りていないこともよくあります。足りていないというのは、図全体の情報量が少ないという意味ではなく、読み手が意味を理解するのに必須な説明が図の中に入っていないという意味です。図としては要素が多くて情報過多にもかかわらず、理解するための説明は不足しているということもありえます。 例えば「RNA複製を阻害する新たなタンパク質を発見した。これは〇〇病の治癒薬の開発に貢献する」という内容の図があったとします。この説明を理解するには、前提として「〇〇病の原因がRNAウイルスの感染にある」ということと、「原因となるRNAウイルスの増殖を抑えるにはウイルスRNAの複製を阻害する必要がある」という知識が必要です。〇〇病に詳しい同業者向けの情報であれば問題ないですが、もしも〇〇病についての背景知識をもたない人がターゲットだった場合は、「RNA複製を阻害する新たなタンパク質を発見した」らなぜ「〇〇病の治癒薬の開発に貢献」するのかが理解できないので、納得感が低くなります。 このような情報不足は研究者の図に多くみられます。例えば、下記のような場合などです。 - ターゲットの背景知識レベルから考えると説明を省略しすぎている場合 - ターゲットが理解できないような高度な専門用語を説明なく使用する場合 - データを提示する際にそれがどんな実験を行った結果のデータなのか、そこから何を読み取ったらいいのか説明していない場合 - ターゲットが知らない要素をキャプションや説明なしに図に掲載している場合 - 説明の抽象度が高すぎて具体的に何をしようとしているのかわからない場合 例をあげればきりがありません。このため、筆者は図の制作依頼を受けると、研究者のラフ案から情報を削る作業と情報を足す作業の両方を行うことが多いです。 情報不足への対応方法は、基本は必要な情報を書き足していくことになります。ここでは典型的な情報不足の例として、ターゲットの知らない専門用語や略語を使用した場合の対処法について紹介したいと思います。 ### 2 専門用語や略語をどう理解してもらうのか 専門用語や略語は、ターゲットがそれらについてよく知っているのであれば、説明なしで使っても全く問題ありません。ただ、そうではない場合は、どういう意味なのかを伝えなければなりません。特に「DAT」などのアルファベットの頭文字による略語は意味が予想しにくいため、知らない略語が大量に使われていると見ていてストレスになります。もしも使わなくても済むのであれば使わないようにするのが基本です。 それでも覚えてほしい研究のキーワード自体が特殊な専門用語になっている場合など、どうしても使う必要がある場合はどうするのがよいでしょうか。よくある方法として、アスタリスク「*」や米印「※」を使って欄外などに注釈形式で用語の意味を付記する方法がありますが、いちいち図の本体と注釈を行ったり来たりするのは、見る側としては面倒です。 注釈以外の対処法としては、以下のような方法があります: - **少し一般化した言葉に置き換える方法**:例えば、「上皮性悪性腫瘍」という言葉を使わずに、単に「がん」や「上皮細胞から発生するがん」と、多くの人が知っていそうな、もう一歩広い上位概念で言い換える - **比喩や似た意味の別の単語に置き換える方法**:誤解を与える可能性には注意する必要がありますが、理解はしやすくなる - **前後の文脈から理解してもらう方法**:例えばダイバーシティという言葉を知らない人に「ダイバーシティが重要」という結論を示しても理解してもらえませんが、「さまざまな性別や宗教の人を受け入れるダイバーシティが重要」と書くと、文脈からある程度意味が予想できるようになる - **視覚的な文脈で理解を助ける方法**:「ダイバーシティが重要」という例であれば、その言葉のすぐそばにさまざまな見た目・職業の人のイラストを入れることで、意味が予想しやすくなる。ほかにも、細胞膜に埋め込まれた楕円の図の中に「DAT」などの略語が書いてあれば、その単語を知らなくても、生命科学系の人であればそれが膜タンパク質の一種であることは比較的すぐに予想ができる ### 3 説明不足に気づくには 情報不足の難しさは、なかなか研究者本人が気づくのが難しいということにあります。研究者は自分の図を無意識に自分の知識で補足しながら見てしまうため、説明不足があっても気づくことができません。足りない情報は、研究者にとっては当たり前すぎて意識できない情報であることも多いです。 気づくためのポイントは、ターゲットの目線・知識量でみたときに理解ができるかどうかということです。ラフ案ができたら、その説明に対して足りない情報がないかを必ずターゲットの目線になって検討するようにしてください。 ただし、それでも気づかないことも多いため、可能であれば第三者に見てもらって意見をもらうのがよいと思います。見てもらう第三者は、可能であればターゲットと同じくらいの専門性をもった方が望ましいですが、難しい場合は近い分野の方でも構いません。