--- title: "3 情報量の適正化:詰め込みすぎた図への対処法" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第4章 図の中身を整理する:ラフ案のブラッシュアップ section: 3 pages: 87-97 images: page_0087.png ~ page_0097.png keywords: ["情報整理", "レイアウト", "メッセージ", "ターゲット", "Before/After", "視覚的重み"] --- ## 3 情報量の適正化:詰め込みすぎた図への対処法 ### 1 適切な情報量とは 研究者は概して、情報を盛り込みたがる傾向があります。専門知識を大量にもっているので、知っていることを図に入れたくなってしまうのでしょう。その結果、伝えたいことが多すぎて結局読み手の印象に何も残らないということが起きてしまいます。第2章-5でメッセージを考えてもらったのは、1つの図に対してメッセージを1つに絞りこむことで、情報の盛り込みすぎを防ぐためでもあります。 当たり前ですが、図に掲載できる情報量は、無限ではありません。デジタルで図を作成すると制作過程で拡大や縮小ができるため、拡大して作業してしまい、ついつい情報を盛り込んでしまいがちです。しかしもとのサイズに戻すと、解像度や人間の認知の限界により情報が受け取れないことがあります。 情報は少なければ少ないほど、見る側の負担が減ります。負担が少ない図の方が、シンプルでわかりやすく、図の内容を理解するモチベーションも高まります。情報量の基本原則は、第2章-5で考えたメッセージを伝えるための必要最小限の情報で図を表現することです。 ただ、どこまで掲載していいのか迷うということもあるかもしれません。そういうときは図の適切な情報量を判断し、その量に収まるように情報量を調整します。図の適切な情報量は次のような条件によって決まります。 #### (1) ターゲットによる違い ターゲットによって入れるべき情報量は変わります。ターゲットの研究に対する関心の程度が高い場合は、受け取る情報の許容量が大きいと考えられます。具体的でやや詳しい内容まで入れても頭に入る可能性がありますし、ターゲットの背景知識が十分にあるならば、知っていることは省略して焦点の情報を多く入れることもできます。逆に、ターゲットの関心が低い場合は、あまり中身を詳しく書いても気に留めてもらいにくいでしょう。 ターゲットの関心が低いケースの具体例として、研究概要図のターゲットが一般の方である場合があげられます。この場合、対象の研究やテーマに対して直接的な関心が低く、読む必然性もないという場合が想定されるため、なるべく情報量を減らしてシンプルにすることで、離脱を防ぐ必要があります。 #### (2) 表示サイズによる違い 表示サイズは、物理的にどれくらいの情報を掲載するスペースがあるのかに直結します。表示サイズが大きい場合は比較的多くの情報を入れることができますが、サイズが小さい場合は情報を最小限にする必要があります。PCで表示する場合やポスターの場合は比較的サイズを大きくすることができますが、スマートフォンでの閲覧やSNSのサムネイルの場合、小さなサイズで視認する必要があります。 #### (3) 図を見る距離による違い 学会などに図をスクリーンに投影して発表する場合、広い会場であれば後方から見ることになるので、スクリーン表示よりも情報量を大きくすることができます。ポスターセッションの場合は、顔を近づけてみることができるので、スクリーン表示よりも情報量を大きくすることができます。 #### (4) 見る時間による違い 研究概要図の場合は、基本はウェブサイト上やPDF、紙媒体に掲載されることが多いです。この場合、読み手は自分のペースで見るため、比較的じっくり見てもらえる可能性がありますが、それでもなるべく短い時間で読めるようにしてください。 実際の表示サイズや画面越しの経験をしてみるのが一番の判断基準です。 ### 2 つくってしまった図の情報量を削る方法 ラフ案をつくってみたら情報が多くなりすぎてしまった場合には情報を削ります。情報量を削るための具体的な手順を説明します。ここで紹介する方法はまず最も抜本的に情報を削る方法で、フォントを小さくするなどの微調整はあとに行います。 > **図4-5の構成:** 医療系研究プロジェクトの概要図で、意図的に情報を過剰に盛り込んだ例。以下の要素がすべて1枚に詰め込まれている: > - 患者ゲノムへの注目(検体収集、倫理委員会、患者の事前許可、ゲノムデータの慎重な扱い) > - ゲノム解析体制(ゲノム解析センター、東西大学、国際研究所、3組織の連携) > - 研究体制(南北大学、国際先端大学、日本医療機構、大学連携センター) > - 治療効果(それぞれのゲノムに合わせた治療、SNP検査、高い治療効果、副作用が少ない、個人差のない治療、医療費削減) > - 研究への還元(ゲノムの知見の蓄積、薬の開発、医療行政提言) > - 地域医療との連携、人材育成、国際交流(シンポジウム) > - カラフルなイラスト・アイコンが多数 > > **ポイント:** 情報が多すぎて何が重要なのかが伝わらない。メッセージが埋もれてしまう典型例。 #### 1 図の要素の重要度を評価する まずは図のさまざまな要素の重要度を4段階で評価してください。4段階とは**【1】きわめて重要**、**【2】やや重要**、**【3】補足的**、**【4】必須ではない**、です。この作業で最も大事なポイントは、あなたにとっての重要度ではなく、メッセージと照らし合わせてどれくらい重要なのかという観点から評価することです。図に盛り込まれた情報は、たいていの場合、あなたにとってどれも重要です。しかし、今回設定したメッセージを伝えるうえでは、それほど重要ではないことがあります。例えば、「情報処理を高速化する〇〇システムを開発した」ことがメッセージの研究概要図をつくる場合、同じ研究室内の別プロジェクトで研究している×システムに関する情報は、その研究者にとっては大事な情報ですが、今回の図には入れる必要はありません。 #### 2 重要度の低い要素から削っていく 評価が終わったら、より優先度が低い要素から適量になるまで削っていきます。どれくらい削るべきなのかは、前述の通りターゲットやサイズ、時間、距離、もとの図案の情報量によっても異なります。作業しながらこれくらいなら見やすいと思えるところまで削っていきましょう。削る際にも、要素を削ってもストーリーが成立するかどうか、それによってメッセージが伝えられるのかどうかは常に意識するようにしてください。 #### 3 重複を整理し、フレーズを整える 図では、重要事項は色や大きさによって強調しますので、1つの図の中では同じことをくり返し主張する必要はありません。意味が重複する箇所があれば、特別な意図がない限り削ります。また、文章になっている部分を単語や短いフレーズに置き換えたり、いくつかのフレーズを1つに統合したりして、文字を減らします。 ### 3 図の例で情報を実際に削ってみる 例として図4-5に示した図で考えてみましょう。ここでは作業をわかりやすくするためにいったん、情報を強調するものをなくし、フラットな状態にします。まずイラストやアイコンなどのピクチャの要素を省略し、色を単色、フォントをmacOSなどに標準で入っているヒラギノに変更しました。 > **図4-6の構成:** 図4-5から装飾要素(イラスト、アイコン、色)を除去し、テキストと図形のみのフラットな状態にした図。情報の構造が見えやすくなっている。同じ要素がすべてグレーの枠と線で表現され、重要度の差がない状態。 > > **ポイント:** 装飾を外すことで純粋な情報構造が見え、何を削るべきかを判断しやすくなる。 最初にターゲットとサイズ、メッセージを確認します。今回の例は、医療系の企業や制作関係者が審査をするグラントへの申請書で、図4-5に掲載したそのとおりのサイズ(幅11cm×高さ6.5cm)で掲載予定だったとします。メッセージは「患者のゲノムに最適な治療を選択することでどの患者にとっても高い治療効果が得られる実践的プロジェクト」で、このようなプロジェクト自体が少なく、実践自体に価値があると仮定してください。 > **図4-7の構成:** 図4-6の各要素に重要度ラベル【1】~【4】を付与した図。 > - **【1】きわめて重要**:「個別化医療の実践と効果」に関する要素(患者ゲノムへの注目、高い治療効果、それぞれのゲノムに合わせた治療など) > - **【2】やや重要**:「やや詳しい説明」としてプロジェクトの具体的内容(医療費削減、ゲノムデータに基づく治療の詳細など) > - **【3】補足的**:研究体制、地域連携、研究倫理、人材育成、国際交流 > - **【4】必須ではない**:研究への還元(ゲノムの知見の蓄積、薬の開発、医療行政提言) > > **ポイント:** メッセージを基準にどの要素がどれくらい重要かをラベル付けしていく。「あなたにとっての重要度」ではなく「メッセージにとっての重要度」で評価する。 (1)のステップで図の重要度を評価します。今回のメッセージからすると、研究への還元はあまり関係ありません。研究への還元自体は重要なことですが、今回の申請書ではなく別のプロジェクトのお話です。このため、重要度は一番下の【4】必須ではない、にしました。また、研究体制や地域連携などは、今回のプロジェクトの話ではあるのですが、メッセージからするとあまり重要性は高くありません。このため【3】補足的、にしました。逆に患者ゲノムに注目することや、高い治療効果が得られるといった要素は、メッセージに直結するので【1】きわめて重要、とし、さらにこのプロジェクトのやや詳しい説明については【2】やや重要、にしました。このように、メッセージを基準にどの要素がどれくらい重要かをラベル付けしていきます。 > **図4-8の構成:** 重要度が【4】の部分を丸ごと削り、【3】の部分を一部削った図。 > - 「研究への還元」ブロック全体が削除された > - 研究体制の詳細(南北大学、国際先端大学、日本医療機構、大学連携センター)が削除された > - 国際交流、人材育成、地域医療連携が削除された > - 残った要素:患者ゲノムへの注目、検体収集、倫理関連、ゲノム解析体制(3組織)、治療効果関連 > > **ポイント:** 重要度【4】は丸ごと削除、【3】はメッセージとの関係性やサイズのバランスを見ながら一部削除。 (2)のステップで情報を削ります。重要度が【4】の部分は丸ごと削り、【3】の部分をメッセージとの関係性やサイズのバランスを見ながら一部だけ削りました。 情報を削った時点でレイアウトが大きく崩れる場合は、改めてパネル式レイアウトから配置を考え直します(参照 第3章-3)。残った要素のなかで似た情報をグループ化し、何枚のパネルに分けるかを考えます。 > **図4-9の構成:** 削った後の要素を4枚のパネルに再構成したレイアウト図。 > - パネル1「患者ゲノムへの注目」:検体収集、血液などを採取する、専門の倫理委員会、患者の事前の許可、ゲノムデータは慎重に扱う > - パネル2「ゲノムの解析体制」:ゲノム解析センター、3の組織の連携による解析、東西大学、国際研究所 > - パネル3「それぞれのゲノムに合わせた治療」:ゲノムデータに基づく治療、SNP検査から最適な治療へ > - パネル4「高い治療効果」:最適化された治療で無駄の削減、治療から医療の質の向上へ、副作用が少ない、個人差のない治療、医療費削減 > - パネル内にはひとまず箇条書き形式で要素の文字を並べている段階 > > **ポイント:** 大雑把な配置を決め、パネル内にはひとまず箇条書き形式で要素の文字を並べる。 (3)のステップでわざわざ文字で見せなくても図を見ればわかる部分や意味が重複する箇所を削り、複数の文章を1つのフレーズに統合するなどします。また、タイトルや見出しをつくり、視覚化のレベルも調整して素材を入れる予定の部分に円などを仮置きします。 > **図4-10の構成:** フレーズを統合し、タイトル・見出し・ピクチャの仮置きを追加した図。 > - タイトル:「患者ゲノムに注目した医療実践プロジェクト」 > - パネル1「患者の医療情報収集」:患者の事前の許可、血液等の採取、専門の倫理委員会設置しデータを慎重に扱う+絵の仮置き > - パネル2「患者ゲノムの解析」:ゲノム解析センター、東西大学、国際研究所、ゲノムとリスクを解析+絵の仮置き > - パネル3「ゲノムに合わせた治療」:SNP検査等に基づき最適な治療を提案+絵の仮置き > - まとめ:「誰にとっても高い治療効果を実現 医療の質の向上と無駄のない医療へ」 > > **ポイント:** 重複する表現を統合し、見出しとタイトルで構造を明確にする。ピクチャの位置を仮置きして視覚化の方向性を確認する。 情報を削る手順はここまでの3段階ですが、完成図がイメージしやすいよう、最後に第5章でお話しする見た目の整理も行いました。 > **図4-11の構成:** 図4-5の情報過多な図を3段階の手順で整理した完成形。色を絞り、ピクチャ要素を入れ、情報をグループ化して見た目を整理。 > - タイトル:「患者ゲノムに注目した医療実践プロジェクト」 > - 3つのパネルが矢印で横に接続:患者の医療情報収集→患者ゲノムの解析→ゲノムに合わせた治療 > - 各パネルにイラスト(患者、研究者、治療のイメージ)が配置 > - 下部に結論:「誰にとっても高い治療効果を実現 医療の質の向上と無駄のない医療へ」 > - 色は青系を基調にシンプルにまとめられている > > **ポイント:** 文字にメリハリをつけ、色を絞り、ピクチャ要素などを入れ、情報をグループ化するなどして見た目を調整。図4-5と比較して格段にわかりやすくなっている。 ### 4 図の情報量を減らすことができない場合 つくってしまった図が情報過多にもかかわらず、さまざまな事情で情報を削ることができないこともあるかもしれません。メッセージとずれている情報にもかかわらず、断りづらい上司や共同研究者から情報追加の要望がある場合や、研究の性質上削るのが難しい場合もあります。 情報量が多い状態は、それだけで読み手の脳に負荷がかかるので、シンプルにする方法以上にわかりやすくするのは難しいかもしれません。ただ、見た目の整理、すなわち情報ごとにまとまりをつけ、表現に強弱をつけることでわかりやすさを高めることはできます。情報のまとまりごとの見せ方や強弱のつけ方の具体的な方法論については第5章-2でご紹介しますが、ここではどのような考え方で整理したらいいのかを簡単にご紹介します。 > **図4-12の構成:** 図4-5の情報量を減らさずに、グループ化と強弱で整理した例。 > - メインストリーム(中央の太い流れ):患者ゲノムへの注目→(1)患者の検体の収集→(2)患者ゲノムの解析→(3)ゲノムデータに合わせた治療→(4)誰にとっても高い効果のある治療(医療費削減、副作用の軽減、医療の質の向上) > - グループ化されたサブ情報(周辺に配置): > - 「研究への還元」:薬の開発、知見の蓄積、医療行政提言 > - 「倫理的対応」:患者の事前の許可、専門の倫理委員会、ゲノムデータは慎重に扱う > - 「連携と育成」:地域医療と連携、人材育成、国際交流(シンポジウム) > - ピクチャ要素は数箇所のポイントのみに限定し、画風もシンプルに > - グループの見出しは大きく強調、グループ内の要素は小さな文字で補足的に表示 > > **ポイント:** 情報を削れない場合でも、グループ化・強弱・ピクチャの削減で整理できる。20個の要素が一度に目に入るよりも、5個ずつの4グループに分けた方が把握しやすい。 まず、文字は削れないという場合でも、必須ではないピクチャの要素が大量にあるようなら減らすようにします。ピクチャが多いと視覚的な情報量が増えますので、少ない方がすっきりします。文字と図形を全体のメインにし、ピクチャの要素はなしとするか、重要箇所に限定します。 次に情報ごとにグループ化します。例えば図中に20個あるすべての要素が一度に目に入ってくると情報量が多く感じられますが、5個ずつの4つのグループに分けて見せると、一度に認識する数が減り把握しやすくなります。情報をグループ化するには、似た性質の情報やつながりの深い情報を集めて長方形などにまとめ、そのグループの見出しを付けます。グループ化することで矢印の数も減らし、視覚的にすっきりさせています。 さらに、情報にメリハリをつけます。見出しは大きく目立つように強調し、グループ内の要素は小さな文字で補足的に示すようにします。第5章-4で紹介する通り、色数も減らします。さらに意味の重複がある部分は削り、可能な場合はいくつかのフレーズを1つにまとめて要素の数を減らします。例えば図4-12では、「個人差の少ない治療」「最適化された治療」「高い治療効果」はほぼ同じことを指しているので、「誰にとっても高い効果のある治療」というフレーズにまとめました。このようにすることで伝える全体の情報量は減らさずに、意味を読み取りやすく整理できます。