--- title: "1 図をビジュアライズして直感的な理解を促す" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第4章 図の中身を整理する:ラフ案のブラッシュアップ section: 1 pages: 78-83 images: page_0078.png ~ page_0083.png keywords: ["イラスト", "アイコン", "視認性", "ピクトグラム", "ビジュアライズ"] --- ## 1 図をビジュアライズして直感的な理解を促す ### 1 ラフ案をビジュアライズすること あなたのラフ案はどれくらい視覚的に表現されているでしょうか。箇条書きに近い図ですか?それともイラストを使って二次元的に説明しているでしょうか?図のビジュアライズ(視覚化)の程度を高めれば、文字とは異なる効果を引き出すことが可能です。逆にビジュアライズの程度が低く文章的な図になっているならば、「これなら文章だけで十分」と言われてしまうかもしれません。 同じ内容を示す図でも、ビジュアライズの程度はある程度変えることができます。ここでは筆者が特に重要ではないかと考える2つの指標からビジュアライズについて検討します。 ### 2 ラフ案の二次元的な展開を考える ビジュアライズされた情報は、その特徴として、より二次元的に情報が展開され、その関係性が線や配置などによって表現されています。言語的な情報は文字を一直線に順番に読んでいく必要があり、最後まで読まないと意味を把握するのが難しい傾向があります。一方、ビジュアライズされると文字や図形などが面に広がって配置され、矢印などによって関係性が明示されるため、最初の一瞥でも全体像を把握しやすくなります。分岐するような複雑な関係性も理解しやすく、文字が減る分、読み取る作業も速くなります。 > **図4-1の構成:** 同じ内容(ガイド資料の設計・評価・完成プロセス)を、ビジュアライズの程度が異なる4段階で示した比較図。縦軸に「二次元的構造化の程度」を低→高で配置。 > - **文章**(最も低い):先行研究を踏まえてガイド資料を設計し、ガイド資料の初案を作る。その後、東西大学でワークショップを実施し、同時に協力者にガイドを利用してもらい、使い勝手についてインタビュー調査を行う。ふたつの評価を踏まえて資料を修正し、ガイドとして完成させる。 > - **箇条書き**:先行研究に基づいてガイドの初案作成/東西大学でワークショップの試行/協力者へのインタビュー調査/評価を踏まえガイドを完成 > - **パネル分け箇条書き**:初案作成→評価(ワークショップ・インタビュー)→完成という流れをパネルで区切り、矢印で接続 > - **図解**(最も高い):先行研究に基づいたガイド初案の作成→評価(東西大学でのワークショップ/協力者へのインタビュー)→修正→評価を踏まえガイドを修正し完成へ、という流れを矢印とパネルで二次元的に構造化 > > **ポイント:** 文章は直線的で、関係性を図解したものがより二次元的な表現となる。申請書や論文、プレスリリースなどでは、本文で文章による説明をしていると思いますので、研究概要図ではなるべく二次元的に構造を図解した方が効果的。 自分のラフ案を見て、どれくらい二次元的構造化ができているかを考えてみてください。文章や箇条書きになっているところがあれば、パネル分けをしてみたり、第3章-5の「ボトムアップ/トップダウン」の方法をもう一度見直して図解化してみたりすると、よりわかりやすくなる可能性があります。 ### 3 ラフ案の視覚的具体性を考える もう1つのビジュアライズの見方として、ビジュアライズされるとより具体的に、私たちが普段見ている視野の世界に近い形で表現されるという考え方もあります。私たちは目に見えた世界の解釈を常に行いながら生きているため、見たままに近い表現は言葉の説明よりもすばやく直感的に理解できます。このため現実世界をそのまま写し取った写真や映像、現実の対象を似せて描いたイラストやアイコンなどのピクチャ(picture)の要素は、言葉よりも直感的にすばやく意味を読み取ることができます。 一方、図にも抽象度の高い表現はあります。例えば因果や時間、作用などのモノやコトの関係性は、日常世界では目で見ることはできませんが、図では矢印などを使って表現することが可能です。棒グラフや円グラフなどのグラフも、日常世界で見ているそのままの視野とは異なる表現です。抽象表現は目で見ている世界とは異なるため、ピクチャの表現と比べると直感的な理解はしにくいといわれています。ただ、抽象表現であっても数字や文字よりは理解しやすいことも多いです。例えばグラフやマップは数字を高さや面積、色など視覚的に比較や区別がしやすい情報に置き換えて表現していますので、単なる文字や数字の羅列より捉えやすいと考えられます。 > **図4-2の構成:** 視覚的な具体性の程度を縦軸(低→高)で示した比較図。同じ内容(ガイド資料の設計・評価・完成プロセス)を4段階の視覚的具体性で表現。 > - **文字と図形**(最も低い):テキストと矢印・四角形のみで構成。先行研究に基づいたガイド初案の作成→評価→修正→完成という流れ > - **シンプルな表現(ピクトグラム等)**:同じフロー図にピクトグラム風の人物アイコンを追加。文書アイコンなども配置 > - **描画的表現(イラスト等)**:イラスト風の人物、大学の建物、書類などを描画的に表現。より具体的な場面のイメージが伝わる > - **写真**(最も高い):実際の写真(人物、大学キャンパス、ワークショップの様子など)を使用 > > **ポイント:** 文字と図形のみの図解は具体性が低く、写真は具体性が高い表現となる。具体性が高いほど直感的に理解しやすいが、必ずしも高ければよいとは限らない。 ### 4 ビジュアライズでの注意 注意したいのは、表現の具体性は高ければ高いほどよいとは限らないことです。例えば写真は情報量が多すぎて見るべきポイントがわかりづらい場合があります。また、イラストが加わることで図の視覚的な情報量が増えてしまい、図全体が煩雑になることもあります。さらに、ピクチャは文字よりも目を引き付けやすいため、あまり重要ではない部分をピクチャで表現してしまうと、そこに気を取られて重要部分が頭に入りにくくなる可能性もあります。 一方で、適度な具体性があれば、直感的な理解を助け、アイキャッチとしての力も高めることが可能です。文字と図形のみの図だと、どんなテーマや内容であってもぱっと見の見た目が似てしまうため、ブラウジングしている人の関心を引く力はあまり高くありません。SNSやプレスリリースなど、読む必然性が低い人の関心を引きたいときは、ピクトグラムやイラストなどを活用したほうがよいでしょう。逆に、申請書の図は審査員が申請書を理解するための図なので、アイキャッチはあまり必要ありません。形状にかかわる説明がなく、図の情報内容自体の抽象性が高い場合は、抽象的な図解でも十分かもしれません。 ピクチャを入れる場所としては、構造や形の説明など文字だけではよくわからない箇所、具体的なイメージをもちにくい箇所、特に見てほしい重要箇所や覚えてほしい箇所、文字が連続してしまう箇所などが候補です。文字だけではよくわからない箇所や具体的なイメージをもちにくい箇所には、理解のためにイラストなどがあった方がいいですが、その他については条件に応じて入れるかどうかを判断します。特に図のサイズが小さい、あるいは図の情報量が多い場合には、多くのピクチャを入れると煩雑になりやすいため、掲載する数を絞るようにしてください。 なお、図の中のピクチャ形式の要素が、既存の素材にないためなかなか揃わず、挿入したいけどできないという場合もあるかもしれません。図の要素の探し方は第5章-5やCOLUMNでお話ししますが、どうしても見つからない場合は自分で描くか、うまく出力できそうなら生成AIに描かせることになると思います。労力がかかって研究を圧迫する場合は、エフォートの優先順位の問題でピクチャ形式の要素を省略するという選択肢もあってよいと思います。インパクトの高いジャーナルに掲載するグラフィカルアブストラクトなど、イラストによる目を引く力も活用したいという場合は、きれいに仕上げてくれるプロのイラストレーター・デザイナーに依頼することも考えてみてください(参照 COLUMN 6、インタビュー)。