--- title: "5 細部を組み立てる" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第3章 戦略をかたちにする:ラフ案の原案作成法 section: 5 pages: 68-76 images: page_0068.png ~ page_0076.png keywords: ["ラフ案", "レイアウト", "矢印", "アイコン", "イラスト", "フォント"] --- ## 5 細部を組み立てる ### 1 図の細部のレイアウトを考える どのトピックをどこに置くのかというおおまかなレイアウトが決まったら、パネルごとの図の細部のレイアウトを考え、ラフ案を仕上げていきます。 伝えたい情報をラフ案に落としていく方法は、大きく分けて2つあります。1つはボトムアップの発想法。図の最終形はイメージしないまま関係する要素を書き出して、移動させたりつないだりしながら図を整理していきます。もう1つはトップダウンの発想法。最初に「図の型」を選んで、そこに情報をあてはめてラフ案をつくります。いずれもメッセージが伝わるかどうかを意識しながらつくっていきます。 研究概要図の場合は複合的な図になることが多いので、ボトムアップとトップダウンの両方の発想法を組み合わせながらまとめていきます。2つの方法についてもう少し詳しく見てみましょう。 ### 2 ボトムアップの発想法:要素をつなぎ、囲み、配置する ボトムアップの発想法とは、描きはじめの時点ではどのようなタイプの図にするかは決めず、描きながら要素を整理して図をつくっていく方法です。まずはストーリーに関係する要素をテキストや図形で描き出し、つないだり囲んだり、要素を移動させたりしながら関係性を可視化していきます。 そもそも図は、基本的に要素間の関係性を示すことで意味を伝えます。要素とは文字や絵、図形、矢印などの構成物のことです。複数の要素の関係性を図解することで、時間関係や論理関係、因果関係、包含関係、大小関係、位置関係などを示すことができます。 要素の関係性は次の4つの方法で表現することができます(図3-14)。 1. **要素の表現そのもの:** 個々の要素の大きさ、色などの見た目 2. **要素のつなぎ方:** 要素同士を線や矢印でつなぐ方法 3. **要素の囲み方:** 要素を囲んだり、重複させたり、囲みを分割したりする方法 4. **要素の置き方:** 要素を縦に積み上げたり、要素を要素の中に置いたり要素の配置によって情報を伝える方法 > **図3-14の構成:** 4つの図解パターンを図示。(1)要素の表現そのもの:大小の異なる図形(大きな四角と小さな四角、色の異なる丸など)。(2)要素のつなぎ方:四角同士を矢印や線でつないだ図。(3)要素の囲み方:複数の要素を大きな枠で囲んだ図。(4)要素の置き方:要素を上下や左右に配置した図。 > **ポイント:** 図の意味は要素間の関係性で伝わる。大きさ・つなぎ方・囲み方・置き方の4手法を適切に使い分ける。 言い換えれば、要素の大きさや見た目、つなぎ方、囲み方、置き方を適切に使うと、図の意味を明確に表現することができます。 ボトムアップの具体的な方法としては、まず図の要素を描き出します。要素としては最初に研究のキーワードは必ず書き出すようにし、メッセージや図のストーリーにかかわる要素も追加していきます。図の要素は、写真、画像、グラフ、絵、図形、文字による単語やフレーズや式などで表現することができます(図3-15)。ラフ案の段階では要素はテキストか雑な鉛筆書き、簡単な図形で仮に表現する程度で問題ありません。 > **図3-15の構成:** 要素の表現手段を6種類図示。左から「写真」(カメラ写真のイメージ)、「データの画像」(ABC解析の画像)、「グラフ・表」(棒グラフと表)、「絵」(木のイラスト)、「図形」(丸・四角・矢印などの基本図形)、「文字・式」(テキストや数式)。 > **ポイント:** ラフ案段階ではテキストや簡単な図形で仮表現すれば十分。 要素が描き出せたら、メッセージとストーリーを意識しながら、要素同士がどんな関係性をもっているのかを考え、線や矢印などでつないだり、線や図形で要素や要素グループを囲んだり、要素を上下左右に移動させて位置関係を考えたりします(図3-16)。関係性を表す過程で、足りない要素は書き足し、いらない要素は捨てていきます。要素は頻繁に移動させるので、ふせんに書き出して貼り付けながら考えたり、PowerPointなどのアプリケーションでテキストボックスを移動させたりするのもよいでしょう。 最初は思いついたままに書き出し、散らかっていた要素も、試行錯誤しているうちに、しだいに整理されてフローチャートになったり、組織図になったりと、型や構造をもつようになります。型や構造が定まってきたら、大きさを整えたり、配置を揃えたりして、ラフ案として見やすくなるよう清書します。 > **図3-16の構成:** 手描き風のラフ案。「患者の許可」→「ゲノムに注目」→「患者のゲノム分析」→「への対処?」→「分析結果に合わせた治療」→「誰にとっても高い治療効果」という流れが、矢印と吹き出しで段階的につながれている。ゲノム分析のアイコンや患者のイラストが簡略に描かれている。 > **ポイント:** 最初は散らかった要素の書き出しから始めて、試行錯誤でつなぎ方・囲み方・置き方を整理していく。ふせんやPowerPointのテキストボックスの活用が有効。 ### 3 トップダウンの発想法:図の型から選ぶ トップダウンの発想法は、まずストーリーに合う図の型((1)~(4))から選び、その表現の型に合わせて図をつくっていく方法です。 例えば、「骨髄中の〇〇細胞が細胞を活性化するメカニズムが明らかになった」ということを示すのであれば、(1)の「拡大」の型を選んで骨の絵の一部を拡大し、細胞が相互作用しているモデル図を描けば完成です。 ここでは研究概要図で比較的よくみる図の型をまとめましたのでご紹介します。図の型を眺めながら、この型なら自分が伝えたいことが伝えられそうだと思う型を選んでください。図の型を複数組み合わせることも可能です。単に異なる型の図を並べるだけでなく、グラフの中に絵を組み込んだり、ピラミッド図の中にフローチャートを組み込んだりと、複合的な図をつくることもできます。 ただし、ここで紹介する型はあくまで代表的なものです。ほかにも探したいという場合はPowerPointのSmartArtなどの各種素材サイトやグラフィックソフトのテンプレート、あるいは教科書や論文の図といった既存の図のなかからでも図の型を探すことができます。 #### (1) つなぎ方によって関係性を示す図 > **図の型一覧:** > - **フロー:** 四角形を矢印で直線的につないだ流れ図 > - **サイクル:** 要素を円形に配置し循環矢印でつないだ図 > - **モデル:** 複数要素を線や矢印で自由につないだ関係図 > - **ネットワーク・マップ:** 多数の丸(ノード)を線で網状につないだ図 > - **ツリー:** 1つの要素から枝分かれする階層構造の図 > - **拡大:** 大きな要素の一部を拡大して詳細を示す図 > - **取り出し:** 全体から一部を取り出して示す図 > - **記号によるつなぎ:** プラス記号や等号などの記号で要素をつなぐ図 #### (2) 囲み方によって関係性を示す図 > **図の型一覧:** > - **包含・重複:** ベン図のように要素を重ね合わせたり、大きな円の中に小さな円を入れたりする図。複数のバリエーション(2つの円の重複、3つの円の重複、入れ子構造など)。 > - **領域の分割:** 円や四角を内部で分割して領域を示す図。3分割の円グラフ型、4分割のグリッド型、中央に大きな要素がある分割型、扇形の分割型など。 #### (3) 置き方によって関係性を示す図 > **図の型一覧:** > - **上下:** 要素を上下に積み重ねた配置 > - **左右:** 要素を左右に並べた配置 > - **奥・手前:** 要素を手前と奥に配置して奥行きを表現 > - **遠近:** 要素の大きさを変えて遠近感を表現(大きい丸が近く、小さい丸が遠い) > - **ピラミッド:** 三角形の階層構造で重要度や段階を表現 > - **階層:** 層を重ねたり積み上げたりして階層関係を表現 > - **中心と周辺:** 中心に主要素を置き周囲に関連要素を配置 > - **位置の指定:** 人体図など特定の位置に要素を配置して場所を示す #### (4) その他代表的な図 > **図の型一覧:** > - **グラフ:** 棒グラフや折れ線グラフなどのデータ可視化 > - **2軸図:** A/B/Cなどの要素を2軸上に配置した図 > - **スケジュール表:** 時間軸に沿って計画を示す表 > - **パネル分け箇条書き:** パネルに分けて箇条書きを配置 > - **リスト:** 項目を縦に列挙した一覧 > - **比喩(木):** 木の構造を比喩として使った図 > - **比喩(歯車):** 歯車のかみ合いを比喩として使った図 > - **比喩(天秤):** 天秤のバランスを比喩として使った図 ### 4 ボトムアップとトップダウンを組み合わせて考える ボトムアップとトップダウンは組み合わせながらまとめていくことになります。例えばボトムアップの発想法で要素を動かしているうちに、もしかしたら円形のチャート((2)2段目左端)がよいかもしれないと思いはじめたのなら、円形のチャートの型に合わせて図をつくり直します。トップダウンの発想法でグラフをつくっている途中でこのグラフを別のグラフとつないだらどうなるのだろうということを考えはじめたのなら、ボトムアップに要素を書き足して試しにつないでみます。試行錯誤をするなかで図の構造を明確にしていき、ラフ案として整えていきます。 --- ### COLUMN ③ 研究者向けの図制作支援アプリケーション 図に使うイラストやアイコンとして、既存の素材をインターネット上で探す方は多いと思います。ただ、論文に使える素材を探すのは大変です。近年、そのような研究者を支援するための有料の図制作アプリケーションが出てきています。ここでは3つほど紹介します。 #### BioRender 生命科学分野で特に知名度が高いのはBioRenderです(図1)。BioRenderは2018年にカナダでつくられたアプリケーションで、インストールしなくてもウェブブラウザ上で研究概要図や模式図、概念図、スライドなどを制作することができます。操作は直感的で、PowerPointのように文字や図形、素材などを挿入し、配置することができます。最大の特徴はアプリケーション上にアイコン素材が大量に組み込まれており、ドラッグアンドドロップで簡単に挿入できることです。論文での使用に適した科学的に正確で幅広い種類のアイコン(生物・臓器・組織・細胞・粒子・分子・実験機器など)をカバーしています。アイコン素材は画風が統一されているので、簡単に見た目がきれいな図を制作することができます。 > **図1の構成:** BioRenderのウェブアプリケーション画面のスクリーンショット。左側にアイコンパネル(Receptors and Ligand等のカテゴリ)、中央にキャンバス(APCとT cellの相互作用を示す図が制作中)、MHC Class I、CD4、CD3などの免疫関連アイコンが配置されている。 > **ポイント:** ドラッグアンドドロップでアイコンを配置でき、画風が統一されているため見た目の統一感が保てる。 #### Mind the Graph 登録者が多いもう1つのアプリケーションにMind the Graphがあります(図2)。Mind the Graphは2016年につくられたアプリケーションで、こちらもウェブブラウザ上で比較的簡単に研究概要図や概念図、スライドなどを制作することができます。特徴は利用可能な科学に関するアイコン・イラストの種類が多く、分野も医学・生命科学だけでなく地球科学や工学、教育など幅広く揃えていることです。自分の研究テーマに合ったアイコンが多く揃っているならば選択肢の1つになるかもしれません。 > **図2の構成:** Mind the Graphのウェブアプリケーション画面のスクリーンショット。左側にアイコンパネル、中央にキャンバスでタイトルやHeading、イラスト素材(脳、骨格、動物など)が配置されている。 > **ポイント:** 科学分野が幅広く、医学・生命科学以外のアイコンも充実。 #### MEDITOR 研究概要図で利用できる画像素材を簡単につくれるアプリケーションもあります。例えばMEDITORは2023年に日本でつくられたウェブブラウザ上で利用できる医学・獣医学系のオンラインのアプリケーションで、3DCGモデルから資料に使える画像素材をつくることができます(図3)。人体や臓器、動物などの3DCGモデルに色付け・透過・回転などの処理をして希望の構図を表示させ、その静止画像を素材としてダウンロードすることが可能です。制作した素材は研究概要図のなかに組み込んで使用することができます。 > **図3の構成:** MEDITORのウェブアプリケーション画面のスクリーンショット。左側に操作パネル(画面、色付けなどのメニュー)、中央に人体の頭蓋骨の3DCGモデルが表示されている。骨の各部位が異なる色で色分けされており、回転や透過の操作が可能。 > **ポイント:** 3DCGモデルから自由な構図で画像素材を生成できる。医学・獣医学分野に特化。 医学分野では人体の解剖学的な3DCGモデルを提供しているアプリケーションがいくつかありますので、気になる方は調べてみてもよいかもしれません。 ここで紹介した図制作支援アプリケーションは、サブスクリプションの有料プランに加入すれば論文の図として使用できるため、著作権の問題で使っていいか迷うことは少ないと思います。画風の好みや使いたいアイコンがどれくらい揃っているか、操作性の相性などによって使い勝手は変わると思いますので、気になる場合はまずは無料版で試してみることをおすすめします。 ---