--- title: "3 あなたの研究の価値を明確化する" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第2章 図の質は準備で決まる:コミュニケーション戦略の設計 section: 3 pages: 35-38 images: page_0035.png ~ page_0038.png keywords: ["メッセージ", "情報整理", "ターゲット"] --- ## 3 あなたの研究の価値を明確化する ### 1 研究の価値とは何か 次に、あなたの研究の価値を考えましょう。研究の価値は1つとは限りません。方法論がユニークであること、宇宙の起源の理解が深まること、すぐに応用可能であること、国際連携体制が強固なこと、常識を覆すことなど、評価軸はさまざまにありえます。ターゲットが共感してくれる価値を探す材料として、できるだけ多様な観点から価値を探ってください。 研究の価値の種類は、大きく分けると主に次のようなものがあると思います。ほかにもさまざまな価値があると思います。以下に当てはまらないものも含め、頭の整理のためにまずは自分の研究の強み・ユニークネス・意義などをメモに具体的にできるだけたくさん書き出してみるとよいでしょう。 - **知的価値**(研究自体の面白さ、新たな視点等) - **学術的価値**(新規性、理論の発展性等) - **技術的価値**(新技術・技術革新への寄与等) - **経済的価値**(製品開発・コスト削減への貢献等) - **社会的価値**(課題解決への貢献、国際連携強化等) - **文化・芸術的価値**(文化財の保存への貢献、芸術的価値の創造等) - **教育的価値**(人材育成等) ### 2 価値はズームアウトして考える 読者のなかには、研究の価値をどう見出したらいいのかわからない人もいるかもしれません。そういう場合は、自分の研究計画や結果の中身だけを見るのではなく、一度ズームアウトして学術や社会の大きな流れや関心のなかのどこに研究がかかわっているのか位置づけを捉えなおしてみると、価値を考えやすくなります(図2-3)。 > **図2-3の構成:** 左側に同心円状の図があり、中心に「自分の研究」、その外側に「学術の関心」、さらに外側に「社会の関心」が配置されている。下部に「研究の広い関心への位置付け」というラベル。右側には「ズームアウトして俯瞰する」という矢印付きの説明がある。 > **ポイント:** 自分の研究を学術・社会という広い文脈に位置づけることで、研究の価値が見えやすくなることを概念的に示している。 例えば、「アリガ菌の〇〇タンパク質の高次構造を解明した」という研究があったとします。それだけでは、読み手の多くは「へえ」程度しか感じられません。アリガ菌が何か知らないですし、聞いたこともない〇〇タンパク質の高次構造がわかっても、何がよいのかわからないためです。そこでもう少しズームアウトした目線で背景情報を加え、「原始的な特徴をもつアリガ菌の〇〇タンパク質の高次構造を解明した」と捉えてみます。筆者が読み手の立場ならばその情報を聞いて、原始の生命にかかわる理解が深まったのだろうか、と先ほどよりも関心をもつようになります。さらにズームアウトして「原始的な特徴をもつアリガ菌のDNA複製にかかわるタンパク質の高次構造を解明した。現代のDNA複製タンパク質と構造が大きく異なることから、初期生命は現在と異なる複製メカニズムをもっていた可能性がある」と俯瞰したとします。同じく筆者が読み手ならばこれを聞いて、初期生命はどのように遺伝情報をつないでいたのだろうかと、強く興味をもつようになります。ここまでくると、「アリガ菌の〇〇タンパク質の高次構造を解明した」という研究は、単にアリガ菌や〇〇タンパク質の理解が深まっただけでなく、生命の起源に迫るという、より多くの人が関心をもつ知的・学術的価値があることが見えてきます(表2-1)。 > **表2-1の構成:** 3列の表。列は「研究の捉え方」「価値の内容」「価値に共感できる人の多さ」。 > - 行1:「アリガ菌の〇〇タンパク質の高次構造を解明した。」→「アリガ菌に関する新たな知見」→ 少 > - 行2:「原始的な特徴をもつアリガ菌のDNA複製にかかわるタンパク質の高次構造を解明した。現代のDNA複製タンパク質と構造が大きく異なることから、初期生命は現在と異なる複製メカニズムをもっていた可能性がある。」→「生命の起源の理解の深化」→ 多 > > **ポイント:** ズームアウトして研究を広い文脈に位置づけるほど、より多くの人が共感できる価値が見えてくることを具体例で示している。 自分の研究の価値は自分の研究計画を見ているだけでは見えてきません。背景知識として世の中のさまざまな価値を知っておく必要があります。学術的価値が何かを考えるには、当然ですがその分野の学術の価値観や動向を把握している必要がありますし、経済的価値や社会的価値を考えるためには、今社会で何に関心が集まっているのか、何がどこまで実用化されているのかなどを知る必要があります。自分の頭で考えるだけでなく、情報収集も行いながら自分なりに価値を見出していくことが重要です。自分では判断に迷うという場合は、指導者や同僚など、他者とディスカッションするのも有効です。 ### 3 どこまでを自分の研究の価値として捉えるかのヒント 研究の価値を考える際、どこまでが自分の研究の価値といえるのかは難しい問題です。特に社会的価値や経済的価値については、価値を主張することで必要以上に実現可能性が高くみえてしまうのではないかと心配になることもあると思います。例えば「将来的に病気の治療に貢献する」という価値があるといいたいけれど、現時点では実現するかどうかが不透明という場合があげられます。他にも「エネルギー利用の効率化を実現する」といいたいけれど、実現するにはほかにもかなりの研究が必要という場合、「環境問題の解決に貢献する」といえないこともないが、もともとそこを目指して進めた研究ではないという場合もあると思います。このような場合、どこまでがこの研究の価値といえるのか、迷ってしまうかもしれません。 どれだけ強気に研究の価値を考えるのかは、分野やテーマによっても研究者によっても、図の掲載先(申請書であれば申請先のグラント)の性質などによっても異なるため、こう考えればよいという単純なルールはありません。一般的には申請書では比較的強気な表現をすることが多いのではないかと思います。筆者自身は、強くはいえない場合でも遠からず関係していると思えるなら、「~に貢献する」「~につながる」という少し控えめなかたちであれば、自分の研究が大きな価値につながるといっていいのではないかと思います。そうすることで、その研究の社会における位置づけが明確になるからです。もちろん、関係のないことを「関係がある」などと嘘をついてはいけませんし、「病気が治せるようになった」「実現した」といった断定調の強い主張をするかどうかは、その社会的影響力の強さを含め、慎重に考える必要があります。