--- title: "2 研究概要図の効果" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 第1章 なぜつくる必要があるのか:研究概要図の役割とゴール section: 2 pages: 13-17 images: page_0013.png ~ page_0017.png keywords: ["視認性", "イラスト"] --- # 2 研究概要図の効果 では、研究概要図にはどんな効果が期待されているのでしょうか。まずは図にはどのような効果があるかを考えてみます。図の効果や影響は、教育学や認知科学などさまざまな分野で研究されてきました。そこでわかってきた主な性質を、以下にみていきましょう。 ### 1 目や関心を引き付け、学ぶ意欲を引き出す 図、特にイラストの目や関心を引き付ける力は強力です。例えばウェブサイトやSNS上でも、文字はスクロールで流れていっても、イラストや図は目に留まった経験があるのではないでしょうか。ポスターやチラシ、テレビや動画の冒頭にイラストが使われるのも、目を引く力があるためです。大量の研究計画や論文がある場合も同様で、イラストがあると読み手が目を向けてくれる可能性が高まります。 図には学習意欲の低い人の意欲を引き出す効果もあります。あなたはあまり乗り気ではない本や教科書を読まなくてはならないときに、適度に図が入っていると読み進めることができた、という経験はありませんか? 大量の文字を読んでいて疲れてしまっても、図があると集中力を維持できることもあります。研究に関する情報は複雑で難解なことが多いため、特に異分野や非専門家向けの情報発信の際に図があると、理解する意欲を維持しやすくなると考えられます。 ### 2 理解を促進する 図の効果といったら理解の促進だと思う人も多いでしょう。特に二次元・三次元的な構造の理解のしやすさは、言葉に対して圧勝ともいえます。例えば自転車を全く見たことがない人に言葉だけで自転車の三次元的なかたちを伝えるのはかなり難しいと思いますが、イラストや動画などで、視覚的に見せてしまえばすぐに理解をしてもらえます。 また、図による表現は言葉と違って一瞥で全体を見渡すことができるため、全体の結論や論理の関係などが素早く理解できます。例えば、「A国とB国はC国を支援し、B国はE国に侵略し、C国はE国と同盟関係で、D国とE国は対立している」というような複雑な関係性は、言葉だけでは何度か読まないと頭に入りにくいですが、図解すると素早く明快に理解することができます(図1-2)。 > **図1-2の構成:** 左側に言葉による説明(テキストブロック)、右側に5つの国(A国・B国・C国・D国・E国)をノードとして配置し、「支援」「侵略」「同盟」「対立」の関係を矢印や線で結んだネットワーク図。 > **ポイント:** 同じ情報でも、言葉だけの説明では何度も読み返す必要があるのに対し、図解すれば一瞥で全体の関係構造を把握できることを示す。 また、図を「使って」理解するという方法もあります。例えば滑車がものをもち上げる仕組みを理解するときに図1-3のような図があれば、図の滑車部分を指したり、図のなかの車が動いているところを想像したりと、図を能動的に活用して理解を進める人もいると思います。このように思考の道具として図を使えば、難しいメカニズムなどでも理解がしやすくなります。 > **図1-3の構成:** 2つの滑車の仕組みを並列に図示。左は固定滑車で5kgの荷物を5kgの力で引き上げる例、右は動滑車で10kgの荷物を5kgの力で引き上げる例。重りと力の数値がラベル表示されている。 > **ポイント:** 図を「見る」だけでなく、図のなかで部品が動く様子を想像するなど、思考の道具として能動的に活用できることを示す。 図、特にイラストは、言葉よりも具体的な情報を提供することで読み手の理解を促すこともできます。言葉は抽象的な表現が得意です。「自由」「人権」といった抽象度の高い言葉をイラストにするのは容易ではありません。一方で、対象や情景などを具体的に理解してほしい場合には、抽象的な言葉のみだとわかりにくくなってしまうことがあります。例えば、「Aさんの飼っている犬」と聞いたときに、あなたはどんな犬を思い浮かべますか。子犬でしょうか、それとも老犬でしょうか。犬種はトイプードルでしょうか、それともブルドッグでしょうか。言葉の抽象度が高いと発言者の意図とは異なるモノやコトをイメージしてしまい、話がすれ違うことがあります。そういう場合でもイラストで具体的な情報を提供すれば正確に理解しやすくなります。 もちろん、具体的であることで、本来の意図より限定した印象を与えてしまう、情報が増えやすいなど、デメリットはあります。しかし、多くの読み手にとって、抽象的な話はピンと来ないため、あまり理解されないリスクがあります。専門家が抽象概念でも理解できるのは、その概念に関する具体的な背景知識(さまざまな先行研究の例など)を豊富に持っているからです。図であればより具体的なイメージを提供することができるため、背景知識の少ない人でも理解がしやすくなります。 ### 3 記憶に残る 図は、言葉よりも強く記憶に残ります。書籍にしろ、ウェブサイトにしろ、文字情報はほとんど覚えていないのに、表紙や途中に描かれた図は覚えているという経験をもつ人は多いのではないでしょうか。言葉による説明でも、言葉単体ではなく図とセットになって記憶に残ることもありえます。読み手の記憶に残れば、研究概要図の場合であれば評価や引用などといった次の行動につながる可能性があります。 ### 4 視覚的にアイデアを整理できる 図は、見せる相手に対する効果だけでなく、制作する側に対する効果もあります。世の中には文章で物事を考える言語思考が得意な人とイメージで物事を考える視覚思考が得意な人、言語思考と視覚思考の両方を利用する人がいるといわれています。科学の歴史を振り返ると、一部の科学者たちは視覚思考を活用して研究を前進させてきました。例えば化学者であるケクレが蛇の夢からベンゼン環の構造式を発想した話は特に有名です。視覚的な思考を文章に変換することなく表現できる図は、研究アイデアを記録・伝達するうえで有用です。 さらにはアイデアマップのように発想を整理することも可能です。もちろん、研究概要図は他者に伝えるための図であり、自分の発想を広げるためのアイデアマップとは異なるものですが、研究概要図の制作過程で情報が構造化されて研究のアイデアが整理されたり、研究の全体像が把握しやすくなったり、言語思考だけでは気づかなかった論理的な抜けや穴を見つけたりすることができます。他の研究者と共同でつくれば、考え方や理解のすれ違いなども発見しやすくなります。 最終的には他者に伝えることが目的の研究概要図ですが、制作の過程では研究の前進にもつながる可能性があります。