--- title: "あとがき" book: 申請書・論文で役立つグラフィカルアブストラクト作成の基本とコツ chapter: 後付け pages: 225-226 images: page_0225.png ~ page_0226.png keywords: [] --- # あとがき 筆者は「わかりやすさの専門家」と言われることがあるのですが、これには小さな違和感を抱いていました。なぜなら、まれにですが、相談された申請書の図などをあえて「わかりにくく表現する」ことがあったからです。また、研究者からもらったラフ案に情報を追加したり、別の内容の図を提案することもありました。このため、与えられた情報をわかりやすく表現する以外にも、何らかの念をもって図をつくっているという自覚はあったのですが、それをなかなか言語化することができていませんでした。 では、筆者が譲れないと思っている信念は何なのか。本書を書くにあたってはこの点を掘り下げて考え、たどり着いたのが、見た人が「研究の価値」がわかるということでした。本書ではテーマを研究概要図に絞ったことで、「研究の価値」というキーワードを明確化することができたと感じています。 本書は筆者の様々な知識や実践が反映されています。 研究者としては、科学論や科学技術社会論、科学技術コミュニケーション論という分野の研究者として、科学の視覚文化や科学と社会はどうあるべきなのかということを人文社会的視点から探究しています。研究情報を伝える際にはいつも、筆者なりに「この研究はターゲットから見たときにどういう価値をもつのか」を批判的に解釈するようにしています。そのときの考え方の一部は、本書に反映されています。 デザイナーとしては、東北大学で教育研究支援者やURAをしていた時代に、文系を含めた幅広い分野の研究者と協力してスライドやポンチ絵の制作を行いました。また、株式会社LAIMANでデザイナーをしていた時代には、ビジネスとしての制作という大学では得がたい経験をさせてもらい、図の制作を依頼してくださった研究者の皆さんからも、多くの学びをいただきました。依頼者の研究の価値をいかにして魅せるかという思考は、デザイナーのキャリアのなかで養われたと考えています。 教育者としてはこれまで数千名の研究者や学生などに向けてスライドや図のビジュアル・コミュニケーションに関するセミナー、ワークショップ、個別のアドバイジングを行ってきました。本書ではそのなかの質疑やアンケートで受けた質問には、できるだけ答えることを心掛けました。例えば、本書第6章の図の作成後にどう活用するのかについては、セミナー参加者から質問がなければ、このような問いをもつ方がいるということにすら、気づかなかったと思います。 本書を書くにあたっては、前述の皆さんのほかにも、多くの方からの学びを反映しています。特に先行研究の少ない申請書の図については、京都大学情報環境機構データ運用支援基盤センターの小野英里氏と、京都大学総合研究推進本部の科研費担当のURAの皆様に有益なご助言をいただきました。本書を執筆中に企画した研究概要図をテーマとした研究会では、インタビューでも紹介した大内田美沙紀氏とはやのん氏のほか、国立研究開発法人産業技術総合研究所の木佑佳氏にもご講演いただき、大きな示唆をいただきました。 さらに本書の一部はJSPS科研費 若手研究「生命科学論文の説明図への制作・掲載メディアの影響」(研究代表者:有賀雅奈 課題番号22K13029)の助成を受けた研究成果に基づいています。この研究にご協力くださった方々にもさまざまなことを教えていただきました。 加えて、私をこの分野に導いたサイエンスイラストレーターの奈良島知行氏、大学院生の時代から筆者を応援してくださっている日本サイエンス・ビジュアリゼーション研究会の代表、田中佐代子氏(筑波大学)と同研究会幹事の小林麻己人氏(筑波大学)、三輪佳宏氏(理化学研究所)、本書に掲載した一部の図(キャプチャ画像等)の掲載許可をくださった研究者や企業の皆様、インタビュー記事に協力してくださった皆様、本書を企画した、自身もサイエンスイラストレーターとして活動する羊土社編集部の増本奈津美さんにもお世話になりました。あわせて感謝申し上げます。 そして最後に、いつも筆者を支えてくれている夫と、驚きと笑顔をくれる息子にも感謝いたします。 2025年11月 有賀 雅奈