# 「こと」と「もの」を削ぎ落とせ:申請書を“筋肉質”に変える、究極の文章ダイエット術 > 「観察することができる」は「観察できる」へ。「重要なものとなった」の「もの」は「発見」や「転換点」へ。形式名詞の「こと」と抽象名詞の「もの」を削るだけで、あなたの文章は驚くほど筋肉質で力強くなります。贅肉をそぎ落としたアスリートのような文体を目指しましょう。 ![冗長な文章を簡潔にする「文章のダイエット」の図解](../../../html/images/10-29-1024x558.jpg) ## 導入:その文章、メタボリックシンドロームになっていませんか? 「本研究は、〜を明らかにすることを目的とするものである。」 「この技術を用いることで、測定することが可能となる。」 自分の申請書を見返してみてください。このような語尾が続いていないでしょうか。 日本語として間違いではありません。しかし、申請書において、これらは文章の贅肉です。 形式名詞である「こと」や、抽象名詞である「もの」を多用すると、文章のリズムが間延びし、論旨がぼやけます。審査員は限られた時間で大量の書類を読みます。無意味な文字数(ノイズ)が増えれば増えるほど、肝心な「中身」が頭に入らなくなります。 求められているのは、贅肉を削ぎ落とし、論理の骨格が浮き彫りになった筋肉質な文章です。今回は、この2つの単語を削るだけで、文章の説得力を劇的に高めるリライト術を伝授します。 ## 根拠となる理論:認知的負荷の軽減と解像度の向上 なぜ「こと」「もの」を削るべきなのか。それは単なる文字数削減のためだけではありません。最大の理由は、審査員の認知的負荷を下げることにあります。 **「こと(形式名詞)」の弊害:情報の希薄化** 「観察することができる(10文字)」と「観察できる(5文字)」は、全く同じ意味です。しかし、前者は後者の2倍の文字数を読ませます。意味のない文字を読ませることは、審査員の脳のリソースを無駄遣いさせる行為です。情報密度が低い文章は、読み手を退屈させます。 **「もの(抽象名詞)」の弊害:思考の停止** 「重要なもの」と言われた時、脳は「もの=物体? 現象? 結果?」と一瞬迷います。このコンマ数秒の迷いが蓄積すると、「読みにくい」「曖昧だ」という印象に変わります。「もの」という言葉は、書き手が具体的な定義をサボった証拠です。 言葉を短く、具体的にすることは、単なる時短テクニックではなく、審査員の脳への配慮なのです。 ## 具体例の提示:Before/Afterで見る劇的改善 それでは、贅肉たっぷりの文章を、引き締まった文章に変身させましょう。 ### **Technique 1:「こと」の削除** 動詞を名詞化(〜こと)してから述語につなぐ癖をやめ、動詞そのものを述語にします。 **Before:** 本手法を用いることで、微細な構造を可視化することが可能となる。(31文字) **Analysis:** 「こと」が2回使われています。「可能となる」という回りくどい表現も、自信のなさを感じさせます。受動的な響きがあります。 **After:** 本手法を用いれば、微細な構造を観察可能である。(23文字) (または:本手法を用いて微細構造を可視化する。) **解説:** 文字数が約25%減りました。意味は全く変わっていませんが、言い切り型になったことで「自信」と「スピード感」が生まれています。 ### **Technique 2:「もの」の具体化** 「もの」という便利な代名詞を使いたくなったら、それが具体的に何を指すのか、専門用語に置き換えます。 **Before:** 予備実験の結果は、従来の定説を覆す画期的なものである。さらに詳細なデータを得るためには、阻害要因となるものを排除する必要がある。 **Analysis:** 「もの」が何を指しているのか曖昧です。画期的な「発見」なのか「データ」なのか。「要因となるもの」は重複表現です。 **After:** 予備実験の結果は、従来の定説を覆す画期的な発見である。さらに詳細なデータを得るため、阻害要因となる夾雑物を排除する。 **解説:** 「もの」を「発見」「ノイズ」といった具体的な名詞に変換しました。これにより、文章の解像度が上がり、専門性の高さが伝わります。 ### **Technique 3:複合技** **Before:** 本研究の目的は、〇〇のメカニズムを解明することである。これは、将来の創薬ターゲットとして期待されるものである。 **After:** 本研究では、〇〇のメカニズムを明らかにする。本成果は、将来の創薬ターゲットとして期待される。 (または:本研究の目的は、〇〇のメカニズム解明にある。) **解説:** 「目的は〜することである」という定型句も、実は削れます。「本研究では〜する」と言い切ることで、主語と述語が近づき、文意が明確になります。 ## 応用と発展:空いたスペースに「論理」を詰め込む 「こと」と「もの」を削ると、驚くほどスペースが空きます。ここで重要なのは、空いたスペースをただの余白にしないことです。 前回の記事で解説した「2段構えの法則(2月12日)」を覚えていますか? 「こと・もの」ダイエットで浮いた1行や数文字は、まさにこの「2段目」を書き足すための原資となります。 そこまでの余裕は生み出せなくても、「測定することが可能となる(12文字)」を「測定できる(5文字)」に短縮すれば、8文字浮きます。この8文字を使って、「高精度に測定できる」や「リアルタイムで測定できる」と書き足せば、文章の「情報密度」と「科学的価値」が向上します。 無駄な言葉(贅肉)を削り、意味のある言葉(筋肉)をつける。これこそが、採択される申請書が持つ「強靭さ」の正体です。 ## まとめ:実践のためのセルフチェックリスト 書き上げた申請書に対し、Wordの検索機能(Ctrl+F)を使って「ダイエット」を実行してください。以下の置換候補を探し、徹底的に削ぎ落とします。 **「こと」検索:** - 「〜することができる」 → 「〜できる」 - 「〜ということである」 → 「〜である」「〜を意味する」 - 「〜を行うこととする」 → 「〜を行う」 - 「解決することを目指す」 → 「解決を目指す」 **「もの」検索:** - 「重要なもの」 → 「重要な知見」「重要な課題」 - 「期待されるもの」 → 「期待される成果」「期待される波及効果」 - 「〜というものである」 → 「〜である」(単に削除) - 「阻害するもの」 → 「阻害因子」 文章の美しさは、足し算ではなく引き算で生まれます。 「こと」と「もの」を削ぎ落とし、骨太な論理だけで構成された申請書は、審査員の心にダイレクトに届きます。今日からあなたの文章をアスリート化してください。