# ABT法とドブジャンスキー・テンプレートで描く、勝てる申請書の物語論 > 申請書は物語です。And(そして)ばかりの退屈な羅列も、But(しかし)連発もNG。最強の構文は「ABT法」です。And(背景)→ But(壁)→ Therefore(解決策)の3拍子に、ドブジャンスキー・テンプレートで抽出した核を乗せるだけで、物語は動きだします。 ![AAA法・DHY法・ABT法の物語リズム(採択の波形)比較図](../../../html/images/02-04-1024x558.jpg) ## 1. 導入:申請書は「冒険小説」である 「科学的な文章に物語など不要だ」 そう考える研究者は多いですが、それは大きな誤解です。データは客観的であるべきですが、それを伝える構成には物語性が不可欠です。なぜなら、審査員はAIではなく人間であり、人間は文脈(ストーリー)がないと情報の重要性を判断できない生き物だからです。 優れた申請書は、古典的な冒険小説と全く同じ構造を持っています。 - **平穏な日常(And):** 重要な研究分野がある。 - **魔物の出現(But):** しかし、未解明の謎が阻んでいる。 - **勇者の旅立ち(Therefore):** だから、本研究が新手法で解決する。 この構造がない申請書は、単なる「事実の羅列」か「支離滅裂な叫び」に過ぎません。本記事では、誰でもこの黄金の構造を作り出せる「ABT法」と、物語の核を決める「ドブジャンスキー・テンプレート」を伝授します。 ## 2. 概念の再定義:AAAからの脱却、ABTへの進化 文章の接続詞に注目することで、あなたの申請書の「退屈度」と「論理性」を診断できます。以下の3つの型を知ってください。 ### **① AAA法(退屈な羅列)** - **構造:** And… And… And…(そして、また、さらに) - **例:** 「コーヒーを飲んだ。そして今日は寒かった。そして公園に行った。」 - **研究での症状:** 先行研究や事実をダラダラと並べるだけ。「あれもやった、これもやった」という報告書スタイル。 - **評価:** 審査員は「で、結局何が言いたいの?」とあくびをします。 ### **② DHY法(過剰な混乱)** - **構造:** Despite… However… Yet…(それにも関わらず、しかしながら、それでも) - **例:** 「努力は無駄ではなかった。しかし犠牲は大きかった。それでもやる価値はあった。」 - **研究での症状:** 逆接の乱用。論点が行ったり来たりして、どこが重要なのか分からない。 - **評価:** 審査員は「話が散らかっていて読みにくい」とフラストレーションを感じます。 ### **③ ABT法(黄金の論理)** - **構造:** And… But… Therefore…(〜であり、しかし、したがって) - **例:** 「のび太は忙しかった。しかし明日は宿題の期限だ。だからドラえもんに頼った。」 - **研究での症状:** 1. **And(背景の共有):** 睡眠は重要であり、記憶の定着に関わっている。 2. **But(問題の提起):** **しかし**、その詳細な分子メカニズムは不明であり、創薬への応用が進んでいない。 3. **Therefore(解決策):** **したがって**本研究では、新規イメージング法を用いてこれを解明する。 - **評価:** 審査員は「なるほど(納得)、それは大変だ(共感)、期待できる(確信)」という感情のプロセスを辿ります。これが採択されるリズムです。 ## 3. 具体的実践法:ドブジャンスキー・テンプレートで「核」を作る ABT法で書くためには、そもそも「何を書くか」が定まっていなければなりません。その核を見つけるために有効なのが、進化生物学者テオドシウス・ドブジャンスキーの名言を応用したテンプレートです。 **【ドブジャンスキー・テンプレート】** > **私は( A )について研究します。なぜなら、( B )においては、何事も、( C )の観点から見なければ意味をなさないからです。** この空欄を埋めることで、あなたの研究の「独自性」と「必然性」が言語化されます。 - **(A)トピック:** あなたの具体的な研究対象(例:睡眠中の神経発火)。 - **(B)広い分野:** その研究が属する世界(例:記憶の固定化メカニズム)。 - **(C)独自の視点:** あなただけの切り口(例:シナプス局所のタンパク質合成)。 **作成例:** 「私は(睡眠中の神経発火)について研究します。なぜなら、(記憶の固定化メカニズム)においては、何事も、(シナプス局所のタンパク質合成)の観点から見なければ意味をなさないからです。」 このテンプレートが完成すれば、あとはABTに乗せるだけです。 - **And:** 記憶の研究は進んでいる。 - **But:** しかし、シナプス局所の合成は見過ごされてきた(Cの観点がない)。 - **Therefore:** だから、私はそこを見る(Aをする)。 ## 4. まとめ:明日から意識すべき行動指針 あなたの申請書(特に要旨や導入部)を、赤ペンを持って見直してください。 1. **「そして」「また」の連続になっていないか?(AAAチェック)** - 3回以上続いたら、そこに「しかし(But)」を入れる余地がないか考える。 2. **「しかし」が多すぎないか?(DHYチェック)** - 本当に重要な「大きな問題」以外の小さな逆接は削除する。 3. **ABTのリズムになっているか?** - セットアップ(And)→ 葛藤(But)→ 解決(Therefore)の一本道を作る。 科学におけるストーリーとは、フィクションのことではありません。混沌とした事象の中から、因果関係という一本の美しい糸(文脈)を紡ぎ出す作業のことです。ABTという強力な糸車を使って、審査員を魅了する物語を紡いでください。